THE REAL WORLD   First Season “ひと夏の出来事……”
[ 第三章 またネ!]

☆ ラウルeye ☆

 

 「今日で丸二日目……リムちゃん、どうしているかな?」

 洞窟で起きたあの事件から、もう丸二日。

 あの後ボク等は、予想通り捜しに来てくれた父さんやアリアさんと洞窟を無事……と言っていいかわからないけど、脱出する事が出来た。

 ……んだけど。

 アリアさん、ボクが飛び出してくる時からカンカン!に怒ってたから……洞窟を出たなり優しい口調だけど、キツ〜イ一言で………

 「リムゥ、帰ったら……わかってるわね?」

 「……はぁ〜ぃ………」

 それまでニッコニコだったリムちゃんの顔が、あっという間に真っ青になっちゃって。

 ンでボクの方を見るんだもんなぁ………アレって反則だよぉ。

    ★

 り、リムちゃんんがこっち見てる……

 ―――“何とか助けてよぉ…”ってつもりなんだろうなぁ、やっぱり。

 ボクだって、本気で怒ってるアリアさんってすっごく恐いのに!

 そんな顔でこっち見るなんて、反則だよー!

 「…あ、あの、アリア…さん?」

 「何でしょう、ラウル君?」

 うう〜、やっぱり“なにか用?!”って眼、してるよぉ………

 「エトですね、リムちゃんのお仕置きなんですけど………」

 「はい?」

 「か、彼女、見てもらえばわかりますけど、頭をケガしているんですよ」

 「………」

 「ほ、ほら、リボンも血で汚れちゃってて……頭ってみためがひどくなくても、強く打ってるととっても危ないんですよ」

 「………」

 む、無言なのにすごいプレッシャー感じるよぉ!

 「だ、だから今回はお説教くらいで………」

 こ、今度は父さん、応援してくれないのかなぁ………

 ―――こわひ〜〜〜!

 「………リム」

 「は、はひ!」

 「今朝のお礼はちゃんと言ったの?」

 「う、うん、洞窟の中で言ったよ、ネッ?!」

 突然リムちゃんから振られて、ボクは慌ててガクガクッやってうなずいた。もう、アリアさんの笑顔が恐すぎる〜〜〜!

 「……なら、いいでしょう。今度もちゃんとお礼を言っておくんですよ。

  ラウル君もごめんなさいね、何度も恐い思いさせてしまって………」

 ―――じ、自覚あるんだ、アリアさん……

 何にしても、助かったぁ

 リムちゃん、もう顔をニコニコさせてるし。

 その後、笑顔で“ありがとう!”って言ってくれたんだったけ。

 さすがに今度は……してくれなかったけど。

 「……リムちゃん、どうしてるかな?」

 あれからもう二日。

 その間背中の怪我のせいで、ボクはずっと動けないでいる。

 大モグラの爪の麻痺する毒は、父さんが持っていた薬草の調合で中和してくれたからもう大分楽になっているんだ。

  部屋に帰ってからボクの怪我を見た父さんは―――

 『これだけやられてて、よくここまで自分の足で歩いてこれたな?』

 『痛みも相当あっただろ?ほっとけば2、3日は麻痺したままで、生きた剥製になっちまうところだぞ』

―――なんて笑えない冗談を言ってたっけ。まあ、確かに部屋に帰って来て“ホッ”と気が抜けた途端に襲ってきた痛みは、いま思い出しても脂汗が出てきそうだけど。

 今はケガも、もう動けないほど痛いわけじゃない。けど、リムちゃんをかばってケガしたことは内緒にしてるから………

 背中の傷をリムやアリアさん達に気付かれない様にするのは苦労したけど、洞窟を出てからは父さんがなにも聞かずに協力してくれた。

 だからまだ父さん以外はこの傷も、丸一日
以上身体が麻痺していた事も誰も知らない。

 ―――自分のために誰かが傷ついたってのは、あとで振り返った時にとてもツライから……

 「もちろん、ボクがケガしたことを知ったとしても、リムちゃんがどう思うかはわかんないけどさ………」

 でも、リムちゃんはそういうことを気にするような子であって欲しいな……もう、自分の事しか考えないような人はあまり見たくないから。

 「今、どうしてるかな、リムちゃん………」

 

◇ リムeye ◇

 「………ひまッ、だよう」

 「怪我人がなに言ってるの。おとなしく寝てなさい」

 ―――お母さん、冷たい………

 「だってぇ〜」

 「だってじゃないでしょう?もしもラウル君が駆けつけてくれなかったら、どうなっていたと思ってるの」

 「……ぶぅ」

 だってだってだって!

 そのラウル君が見舞いに来てくれないんだもん!

 もう、二日もたつのにッ

 「しょうがないでしょう、きっとあの子にもなにか来れない理由があるんでしょうから」

 「へ?」

 「ラウル君のことでしょう?」

 な、なんでわかるわけ?!

 あたし一言も言っていないよ?

 「いつも遊んでいるタク君とかお友達は、昨日も今日も来てくれているじゃない。タク君なんかまだ自分の怪我も癒えていないのに夕食前に、もう一度お見舞いに来てくれるって
言ってたようだし。

  ラウル君くらいだもの、まだお見舞いに来ていないのは」

 「そりゃ、そうだけど………あ、あたしは別に、ラウル君を待ってるわけじゃ」

 「あら、リムって結構冷たいのね?」

 そんなこと言ったって、そのまま“ウン!”なんて答えたら……あたしがまるで彼だけ待ってるみたいだもん………

 「そうそう、忘れてたわ。ハイ、あなたのリボン」

 「あ………」

 「血のついたところ、落とすの大変だったんだから」

 「ありがとう、お母さん」

 「あなたが誰の手にそのリボンを巻いてあげるのか……お母さん、あなたがどんな子を選ぶのか、とっても楽しみなの♪

  まだ気が早いとは思うんだけど………」

 「そうだよ、お母さん。あたしにはまだ早すぎだよぉ」

 誰の手に……かぁ。

 こんなお転婆なあたしだけど、それでもやっぱり夢はあるのよね。

 まぁ、そのうちの一つはラウル君に取られちゃったわけなんだけど……。

 ―――“それならラウル君がナイト様なら、全然問題ないんじゃないかしら?”

 「あ………」

 す、すっかり忘れてた!

 あたしの夢、全部かなえたいって思うなら………

 でも、あんな事故であたしの一生決まっちゃうなんて我慢できない!

 で、でもでも、ラウル君ってそんなに悪くないっていうか、良さそうな人だし………

 それでもやっぱりあたしの一生の事だもん、自分で決めたい!

 ―――だ、大体あんな事故で!あんな…事故…で……

  かああぁぁぁぁぁぁっ

 「お、思い出しちゃった……」

 「リム、大丈夫?

  顔、真っ赤になってるけど………」

 「だ、大丈夫………」

  コンコンッ

 あれ?ノック?

 ……ひょっとして♪

 「はい、どうぞ」

 「すみません、アリアさんはこちらにいますか?」

 「ラウさん。私はここにいますが……なにか御用でしょうか?」

 なんだ、おじさんかぁ……ちょっと期待して損したなぁ。

 ……ほんとになにやってんだろ、あたしがこんなに待ってんのに!

 ―――それとも、あたしがあんな事しちゃったから、恥かしくて来れないのかな………

 「はぁ………」

 「どうしたんだい?リムちゃん、大きな溜息ついちゃって」

 「フフフッ、ラウさん、息子さんのラウル君、今どうなさっています?

  やっぱり、練習に行っているのですか?」

 あ、お母さんナイス!

 そっか、せっかくラウル君のお父さんが来てんだから、聞いてみればいいんだ!

 きっと今どこで何してんのか、一番知っているはずだもんね♪

 「あ、ラウルなら、部屋にいると思います」

 「あら、そうなんですか?

  そういえばラウル君、昨日は夕食時に手伝いに来てくれなかったんですけど………」

 あ、そういえばラウル君、ウチに泊まるようになってからお母さんの手伝いもしていたんだっけ。ならあたしのご飯持ってきてくれれば少しは話ができるのにぃ……

 「あ〜、その、やれやれ参ったなこれは」

 あれ?

 おじさん、なんか苦笑いしてる。どうしたんだろ?

 ラウル君がどうかしたのかな?

 「ラウル君、どうかなさったんですか?」

 「ウ〜ン、本人に口止めされているんですけどね……」

 「絶対言わないから、教えて!おじさんッ」

 もしかして、なにかケガしてるの?

 だとすれば、あたしを助けに来てくれた時くらいよね……それまで元気にしていたんだから。

 ―――でも、あたしをかばって大モグラと戦っている時には、別にケガした様子はなかったけど………

 「リムちゃん、ラウルには内緒だよ?」

 「大丈夫、これでもあたしは約束は守る方だから」

 「あら、そうだったかしら?」

 ―――お、お母さん、こんなときにそんな事を言わないでよ!

 「アッハッハ、まぁいいでしょう。ラウルの奴、足首を挫いて寝てるんですよ」

 「足?でも大モグラにトドメを刺した時はすごいジャンプしていたけど………」

 立ってるあたしを跳び超えそうなくらい、すごいジャンプだったもん。あんなの足挫いていたらできっこないよ!

 「酷いんですか?」

 「いえ、もう腫れもひいてますから、大丈夫ですよ。

  それとね、リムちゃん。足挫いたのは戦ってる最中じゃないんだ」

 「え?」

 「実はこれがアイツの隠していたい理由なんだけど、私とアリアさんが洞窟の中まで迎えに行っただろう。あのあと洞窟を出るときに私が君を背負って先頭、そしてアリアさん、
最後のしんがりをラウルが守っていたんだ。

  その時途中からラウルがしばらくの間、遅れたのに気がついたかい?」

 「ううん、全然知らない……その間になにかあったの?」

 あたしはおじさんに、首を横に振って見せた。

 でもそれって、なんか納得できないような気がする……。

 ―――あの時のラウル君……一番後ろできつそうな顔してたけど、ちゃんとついて来ていたような気がするんだよね。

 「すっかり安心して気が抜けてたらしくてラウルの奴、リムちゃんが落とされたあの穴を登るときに足を滑らせてくじいたらしいんだ。カワイイ女の子助ける為に戦って、無傷で
勝って、カッコよく決めた後にドジしたもんだから………ちょっと見栄はってるんだよ」

 「あらあら………」

 「……………」

 お母さんはアッサリ納得しちゃったみたいだけど、やっぱりあたしはちょっと納得できないよ!

 だって、いくら見栄張ってるって言ったって、あのラウル君が足挫いちゃうくらい滑り落ちたんでしょ?

 なら、驚いたりして声をあげそうなものだもん!

 「………あたし、ちょっとお見舞いしてくる!」

 「いッ!」

 ―――なんかラウおじさんが声上げて驚いてるけど、し〜らないっと!

 「同じ家の中の、廊下一つの距離だもん。いいでしょ、お母さん?」

 「そうねぇ……」

 「ストーップ!」

 「キャ!?」

 「……びっくりしたァ。もう、突然大きな声を出さないでよ、おじさん!」

 「リムちゃん、約束は守ってもらわないと困るよッ」

 「あたし別におじさんから“足挫いてるって聞いたから見舞いに来たよ〜”、なんて言う気ないよ?」

 「でもだよ、自分より怪我の酷いリムちゃんにお見舞いなんてされたら、見栄張ってる分だけラウルが惨めだよ?」

 「ウ〜………」

 そりゃそうかもしれないけど………やっぱり気になっちゃうじゃない。あたしを助けてくれるために降りた洞窟で、ケガした事には代わりないんだからさ。

 それに、あたしは足を挫いて部屋でじっとしているなんて、信じてないもん!

 「……そうねぇ。リム、やっぱり今は我慢しなさい。

  さっきも言ったけど、ラウル君にもそれなりに来れない事情があるのよ」

 ―――あ〜〜ん、もうっお母さんまでぇ…

 「そ、それはわかるけど………」

 「リムちゃん、今日は我慢してくれないかな?

  あいつがよほど悪くない限り、明日には無理やりでも見舞いさせるから」

 「ウ〜〜〜!」

 ―――あたしは今!ラウル君の様子を見に行きたいのに〜〜〜ッ

 ―――行くなって言われたら、行きたくなっちゃうのは当たり前よねッお母さんたちが部屋から出て行ったらこっそり行ってやるんだから!

 「リム、あなた今からでもラウル君の所に行こうと思ってるでしょ?」

 「えっ!」

 さ、さっきから、どうしてお母さんにはあたしの考える事がわかっちゃうの?!

 あたしそんなこと、ひとっことも言ってないのに!

 「母娘ですもの。大体の事はわかりますよ。

  いい?今は、ちゃんと部屋でおとなしくしていなさい」

 「ぶう!」

 「わ・か・り・ま・し・た・ね?」

 「……はぁ〜い!」

 ここんところ怒られてばかりだから、お母さん……とっても怖いよ〜〜〜!

 うう〜〜、ラウル君のところに行きたいのに、ラウル君のところに行きたいのに〜〜〜!

 「まぁ、明日にはラウル君を確実につれてきてくださるってラウさんも言っているし、我慢しておとなしくしていなさい」

 「ハ〜イ」

 「はい、よろしい。

  ところでラウさん、あたしに何か御用があったんではありませんか?」

 「あ……そうでした!アリアさん、少し時間いただけませんか?

  ちょっと折り入って相談があります………まだ、決まったわけではないのですが」

 「わかりました。ここではなんでしょうから、それでは食堂の方にでも降りましょう。

  リム、とりあえず今は、おとなしくしていなさいね」

 「はァ〜い」

 ……………

 お母さん、ラウおじさんと一緒にあたしの部屋から出ていっちゃった。

 「あ〜ぁ、また一人かぁ」

 つまんないなぁ………ふぅ……

 でも、しょうがないよねぇ………あたし、お母さんとケンカする勇気なんてないモン。

 ―――だってお父さんに聞いた、お母さんの昔って………

 「リムッ」

 「は、はひ!」

 なに?!

 い、今のお母さんの声、廊下から?

 ま、まさか……いまのも、わかったのかな?!

 「あとでオヤツもって来てあげるから、お水がいい?それともジュース?」

 「……えと、ジュースがいいな〜、なんて…」

 「わかったわ、あとで持って来てあげる」

 「ありがとう……」

 ―――……はぁ、ビックリしたぁ!

 これじゃあ、やっぱり下手に動けないよねぇ……

 「今、どうしてるかな……ラウル君」

 ―――たった廊下一つの距離なのに……なんだかとっても遠いなぁ………

 

☆ ラウルeye ☆

 「………ラウル、お前、リムお嬢ちゃんのことをどう思ってる?」

 「へ?」

 父さんが突然そんなことを言ったのは、ボクに夕食を持って来てくれた時のこと。

 最初にリムちゃんやアリアさんが、実はボクが助けに行った時にケガしたんじゃないかって気づきだしたこと。それでボクがドジして足を挫いた事になってることを聞いた。

 そのあと、いきなりそんなことを訊かれたんだ。

 「どうって?」

 「綺麗とか、カワイイとか、好きとか嫌いとか………」

 「い、いきなりそんなこと聞かれたって………」

 「いいから、思うままに言って見ろ」

 なんでいきなりそんな事を聞くんだろ?

 ―――そりゃあさ、確かに色々面倒くさい事やってケガ隠したりして、普通じゃしないような事してるけど………

 でもそれはある程度ボクの性格で、その性格そのものは父さんの背中を見て育ってきたからって事はわかってると思ってたんだけど?

 「……綺麗っていうよりは、やっぱりまだカワイイって感じだよね。でもアリアさんがすっごい綺麗だし、将来が楽しみってやつじゃないのかなぁ?」

 「ふんふん、それで?」

 ―――普通じゃないけど、でもボクはリムちゃんに特別なつもりは………

 「…嫌い、じゃないと思う。あんな出会い方して……最悪の思い出になるって思っていたんだ、最初は」

 「………」

 父さんが何を考えているのかわからないけど、今は黙ってボクのいう事を聞いてくれてる。こういう時の父さんは決まって、なにか大きな事の判断でボクの意見を聞こうとしてい
るんだ。

 だから、嘘はつけない。本心から答えなきゃ………

 「でも今回、事件のおかげもあって……仲直りできたんだ。ケンカして、仲直り出来た友達なんて初めてなんだよ。いまボクがあの子を好き?嫌い?と訊かれたら、ボクは間違い
なく好きだと思う………」

 ―――あ、あれ、なんか……変な気分………

 なんか落ち着かないんだよ……ね、あの子のこと考えると。

 よくわかんないけど、なんとなく恥ずかしいなぁ………

 「そうか……仲直りできたか…」

 「な、なんか父さんらしくないなぁ。どうかしたの?」

 よほどの事があった時と、ボクがなにか間違った事をしない限り、いつも笑顔の父さんが珍しく眉間にシワを寄せてる。

 ―――遺跡の事か、それ以外か、ボクが寝ていた間に何か問題が起きてるんだ………きっと。

 「……この村にある遺跡には、今は手が出ない事がわかった。だから近いうちに出発しようと思う」

 やっぱり………。

 でも…

 「え?手が出せないって……」

 「残念だが、父さんの経験もこの腕力も、まったく通用しなかったんだ。中への扉は堅く閉じられていて、今も生きているらしい遺跡の“頭脳”がその意思を見せない限り村の人
も入れないらしい」

 父さんは今まで色々な遺跡をまわってあらゆる“機械”を使いこなしてみせたし、狼人としては一際大きい身体をしていてとっても力が強いんだ。

 ―――そのボクの“憧れ”の父さんが、手も頭も出せないなんて………

 「悔しいが、ここは時が来るのを待つしかない………」

 「それはいつなの?」

 「数年は先に事になる」

 「そんな!」

 やっと母さんの笑顔が見れる日が近づいて来たと思ったのに!

 やっと………

 「父さんも悔しいが、今どうする事も出来ない。それなら現実をしっかりと認識して、いま出来る事を捜さなければならない。

  わかるな、ラウル?」

 わかってる、わかってはいるんだけど!

 ―――でも………

 「……………」

 「………ラウル」

 「……わかってる。わかってるつもりだよ、父さん。

  駄々こねていたって、何も出来ないから」

 ―――きっとそんなボクを見ても、母さんは笑ってくれないから………

 「よし、よく出来た!

  父さんはさっそく次にどこの遺跡を調査するか考える。出発は明後日くらいのつもりだ」

 「明後日……ちょっと辛いけど、早く怪我を治さないといけないね、ボクも」

 「いや今回、ラウルはここに残って待っていろ」

 ―――えっ?!

 「それってどういう事?」

 「ラウルの傷、無理しなければもう動けるだろうが……決して軽いものじゃない。傷跡もおそらく残るだろうしな………」

 「そりゃあ、そうだけど……でも傷の一つや二つくらい」

 「お前の身体は母さんが創ったものでもあるんだゾ?

  傷だらけで見るからに痛々しい身体を、目を覚ました母さんに見せるつもりか?」

 「でも!」

 「お前があのお嬢ちゃんに気遣って怪我を隠しているように、母さんにも少しは気をつかってやれ」

 「あ………」

 「母さんは、お前が赤ん坊の時の姿しか知らないんだ。その赤ん坊だったお前が、自分が寝ている間に傷だらけになって起こしに来てくれたら……母さんはどう思うとおもう?」

 「う、う〜〜ん……」

 確かに、父さんの言う通りかもしれない。

 ボクの“母さん”が、ボクの理想通りの人だったら………

 「……………」

 「それにな、アリアさんも見た感じが若くて騙されそうだが……母親としてしっかりしている人だ。あの人になら、一時お前を預けてもいいと思っているんだ、私は。

  ラウル、一度家族というものを経験してみるのもいいんじゃないか?」

 「父さん?」

 「もうリムお嬢ちゃんとは、仲直りできたんだろう?」

 「え?うん……それは、そうなんだけど」

 ―――でも、ボクは母さんが寝ている間に見て来たものがあるんだ。ボクが物心ついた時から、傷はどんどん増えているけど変らないものが………

 「……父さんな、お前には申し訳ないと思っている」

 「え?」

 「まだ物心つく前の幼い時からずっと一緒に旅を続けてきたせいで、お前に同じ歳くらいの友達がまったく出来なかったのは、私の責任だと思っている」

 ―――父さん、そんな事を気にしていてくれてたなんて……

 「そ、そんな事ないよ。そりゃ確かにボクには同じ歳くらいのの友達がいなかったけど、この旅は母さんの笑顔を見るためだって父さん言っていたじゃないか」

 「……ああ、その言葉は嘘じゃない」

 「なら父さんに責任なんてなにもないよ!

  ボクだって寝顔じゃなくて、母さんの笑顔を見てみたいから、納得して今まで父さんについて来たんだからさ。なにも責任とか感じる必要なんてないよ!」

 そうだよ、今までそんな事考えもしなかった。

 友達が欲しいなんて思ったことなかったし、どうせ一時の事だからどうでもいいと思ってた。

 いつもボクの目の前にあった、変らないものさえあれば―――――

 そのうえ、お母さんのいる家族なんて………ただ憧れでしかなかった。

 ―――そう。欲しくても、今は要らない。父さんの背中さえあればいい、と思ってた………

 「とにかく、今回は大人しく療養しているんだ。二十日間ほどしたら迎えに来るから」

 「で、でも」

 「アリアさんや、リムお嬢ちゃんと暮らすのはいやか?」

 「そんな事はないけど………」

 「なら何事も経験だ。いいな?」

 「……う、うん………」

 「よし、決まりだ。アリアさんには、もうある程度は話してあるから心配ない。ラウルは怪我の様子にあわせて仕事を手伝うんだぞ?」

 「うん………」

 「……まぁ、練習だと思って二十日間をすごしてみろ」

 「練習?」

 「ああ。ユリが……お母さんが目を覚ました時、本当の家族で暮らす時の練習だと思ってな………」

 「お母さん………」

 ―――ユリ……これがボクのお母さんの名前。

 ―――いま、母さんは寝てる。父さんの言葉をそのまま使うと、母さんは不治の病なんだって。普通ならボクが産れた後、数年で死んでしまったはずなんだって。

 ―――だけど母さんは“かぷせる”に入って眠りつづけることで今も生きてる。母さんは何もしないことで、今も生きてるんだって。

 今まで父さんは、母さんの病をなんとか治す方法を探してきたんだ。

 そして今からも………

 「父さん」

 「ん?」

 「必ず、迎えに来てくれるね?」

 「当たり前だ、要らない心配するな。父さんの夢は、一家三人で世界を旅することなんだぞ?お前がいなくちゃ話にならない。

 それにまだ、これからどれくらいの遺跡を巡っていかなくてはならないのか、想像もつかないからな」

 父さんはそれまで座っていた椅子から立ち上がって、ベットに座るボクの頭に右手をそっと置いた。

 「ラウル、お前は私にとって大事な息子だ。そして同時に遺跡を探索する私の、大事な仲間だ。今は怪我を治すために一時の休息をするだけだ。

  お前には母さんの笑顔を見るときまで、一緒にいてくれないと私が困る」

 父さんは立ったまま、優しい表情でボクを見下ろして言った。

 目線の高さが半分くらいしかないボクに、立ったままで見下ろして話す父さん。

 他の人はどう思うかわからないけど、これが父さんなりにボクを対等に見てくれている証なんだ。

 ―――子供と話すために、同じ視線の高さにしゃがんだりしない。たとえ見下ろす形でも、そのままの姿で話してくれるのが、父さんなりの方法なんだ。

 「わかったよ、父さん。今回は父さんの気遣いに甘えてみるよ」

 「よし、それなら父さんは早速アリアさんに伝えてくるよ。ラウルはどうする?」

 どうする?って言われても………あっ!

 「父さん、ボクとりあえず―――」

 「うん?」

 「とりあえず、御飯、食べるね………」

 気がついた時には、父さんが持ってきてくれた夕食……とびっきり美味しいアリアさんの料理が、ボクの膝の上ですっかり冷めちゃってた………

 「………お母さん、かぁ」

 夕食をとってその食器を厨房のアリアさんのところへ父さんに下げてもらって、する事がなくなってしまったボクはそのまま眠ってしまったみたいで………そのせいかな、真夜中
に眼がさめちゃった。

 こんな時間に眼がさめちゃうと、何もする事かないからつい色々考えちゃうよね………今のボクにとって一番気になるのはやっぱり父さんの話しかな。

 今ボクが十一才だから、父さんはボクを連れて十年近くも旅をしている事になるもんね。そのあいだ母さんの事だけじゃなくて、ボクの事でも色々悩んでいたんだなぁ……。

 「わぁ………」

 隣のベットで寝ている父さんを起こさないようにそっとベットから降りて、なんとなく窓を開いてみて驚いた………。

 そこは、まるでボクの知らない世界だったんだ。

 もちろん、別にボクが寝ている間に、どこかしらない所に運ばれてしまっていたわけじゃない。ただ見渡せる限りの家が、通りにしかれた敷石が、家の向こうに見える森の木が、
みんな青白い月明かりに蒼く染められていたんだ!

 夜空を見上げてみるとほとんど雲がなくて、まるで宝石箱をひっくり返したように小さな輝きがキラキラしてる。その中でも特別大きな宝石―――もう少しで真ん丸になる月が、
窓から見える村を綺麗に蒼白く染めてる。

 ―――なんて思っても、ボクは宝石箱をひっくり返したところを見た事なんてないけどさ………

 真っ暗な空が、点在する星の輝きを宝石みたいに。

 一際大きな宝石のような月の輝きが、蒼く照らし出されている家並をとても穏やかな感じに………

 そしてその家の影の暗さが、再び星の輝きに目を向けさせてくれる………。

 ―――まるで星の輝きと、空の闇と、残るすべての蒼、そしてその蒼に潜むようにある暗い影。三つの色と四つの存在で世界が出来ているみたいで、何だか不思議な感じがする。

 でも、すごく綺麗だ………

 ………

 ……………

 せっかくだから、ちょっと出てみよ。

 ―――こんな時間だし……この怪我、見られる心配もないさ!

 ボクは包帯グルグル巻きの身体に半ソデの上着を一枚だけ着て、ベットに立てかけておいた鉄剣を手にそっと部屋を出た。

 

◇ リムeye ◇

 外ではお月さんが、空高いところから森をやさしい光で照らしているこの時間。

 「……」

 日も暮れて、村中すっかり静かになっちゃったこの時間……。

 「………」

 ようするに誰でも、もう寝ているこの時間………。

 「………シクシク」

 ―――なんでこんな時間になっても眠れないのぉ、あたし?

 ヤッパリ日長一日、ベットの上でゴロゴロしているせいよねぇ………。

 参ったなぁ、昼間も暇でしようがないのに、夜も寝れなくて暇だなんて。

 ……………

 ………

 …

 う〜〜〜ッ

 こんな時間じゃタクもみんなも寝てるだろうしなぁ……

 誰か話し相手くらい、してくれる人いないかなぁ……

 ……………

 「ラウル君……なら、この廊下の先の部屋にいるのになぁ」

  カチャ……

 ベットを降りて、そっと扉を開けて廊下の先を見てみる。当たり前だけど、廊下の先の方にあるラウル君の部屋の扉は真っ暗で見えなかった。

 ―――なんか見えないって、嫌われてるみたいでいやだなぁ………

 「あぁ〜あ、いまならお母さんもグッスリ寝てて、遊べるチャンスなのに。“寝不足は美容の天敵!”って言うくらいだから」

 そっと扉を閉めて、何となく窓際まで行ってみる。

 別になにか見たかったわけじゃないけど、何となくカーテンを開けて、窓を開いてみた。

 「わぁ………なんかいい感じ♪」

 今日はあまり雲がなくて、もうちょっとでまん丸になりそうなお月様が綺麗に見えてたの。だからなんとなく窓枠に両手を着いて、しばらく見上げていたんだ♪

 ……

 ……………

 「………でもやっばりすぐ飽きちゃったよぉ」

 ず〜っと同じなんだもん、お月様。

 あ〜ぁ、なにか楽しい事ないかなぁ………

 「散歩……でも、しようかな。村の中だけくらいなら、いいよね?」

 どうせ返事はないし、もしお母さんに見つかったりしたら止められるし。バレないように“そ〜っ”と出て行かなきゃ!

 「あ、でも服はどうよう………」

 いま着てるの、半ソデ短パンのパジャマなんだよね。

 ―――このパジャマ、お母さんのお手製♪……っていうか、あたしの服って、全部お母さんが作ってくれるんだよね。シャツはちょっと余裕のあるダブダブな感じで、あたしの好
きな綺麗な黄色に染めてくれてるんだ♪

 この黄色のパジャマはあたしのお気に入りだから、汚したくないんだよねぇ………。

 でも、部屋でおとなしくしてるなんてもういやだし!

 う〜ん………

 …う〜ん……

 ……う〜ん…

 「アーッもぅ、どうしよう?!」

 ―――まさかお母さん、ここまで考えてあたしにこのパジャマ着せたのかな?

 昼間も、月明りの夜も、あたしの村はあたしの村。

 だけど、あたしが生まれ育ったこの村が昼と夜で、こんなに変るなんて知らなかった………。

 ―――テヘヘ、結局出てきちゃった♪

 ―――でも、出て来て良かった……なんだかよくわかんないんだけど、すっごいの!

 ―――なんかまるで、あたしが生まれ育った村じゃないみたい!

 「こんなにこの村が広く感じた事なんて、初めて………」

 いつも見てきた家並。

 あたしがみんなといつも遊んでいる、中央の通り。

 いつも“かくれんぼ”に使う、家並の軒下の道。

 シン……と静まり返っている村の外の森。

 ―――どれもいつもと同じなのに、何だかどれも違う所にいるみたい………

 青白く輝く月明りで、あたしが今まで見て育ってきた村がまったく別の所に見えちゃう。こんなことがあるなんて……なんだか、ラッキーって感じ♪

 だってこんなこと、きっとあたししか知らないもん♪

 「たまには真夜中の散歩ってのも、いいものね〜♪」

 月明かりに照らされてる青白い世界の中を、あたしは一人であっちへこっちにと村の中を歩いてみてる。

 本当に、不思議な感じ。

 知らない所なんてないような、そんなあたしの村なのに………。

 「別世界にいるみたい……そう、蒼い世界…かな

  みんな家で寝ているんだから当たり前かもしれないけど、この蒼い世界にはまるであたし一人しかいないみたい………」

 ―――だって、あたしのパジャマ以外に“蒼く”ないモノが、なにもない………あれ?

 誰か……歩いてるみたい。

 こんな時間に、あたし以外で散歩している人がいるなんて………誰だろう?

 背丈はあたしより、ちょっと高い感じで、男……男の子、かな?

 ちょっと離れすぎてて、誰なのかわからないけど……いったいどこに行くんだろ?

 あたしのいる村の中央通りを横切るように歩いていってたから、その先は……出口?

 あの人が歩いてたの、中央通りでも端っこの方だから、それを横切るって事は村の外に行くんじゃ………?

 「こんな時間に村の外に行くなんて、何をする気なんだろ???」

 ―――よ〜し、あとをつけてみよう!

 散歩は村の中だけのつもりだったけど、せっかく面白そうなモノ見つけたんだもん♪

 あとをつけなきゃ損ってもんよね!

 

☆ ラウルeye ☆

 「やっぱりここが一番かな?」

 ボクは洞窟のそば、そびえたつ壁から水が噴出している“あの”水浴び場のそばに来てる。森の中でもこの辺り、洞窟周辺は木が少ないから空を見上げることができるんだ。

 村の中をしばらく散歩して蒼い世界を楽しんでみたけど、歩きながらじゃ星空を見上げようと思っても首が疲れちゃうもんね。

 「ここなら横になって星を見る事も出来るし、水の流れる音を聞きながらちょっと考え事も出来るから」

 それにこんな時間に、こんなとこに来る人はまずいないだろうし。

 ―――日が昇るまでくらいなら、怪我を見られる事を警戒しなくてもいいかな。

 薄いシャツ一枚の下の包帯を意識して、ちょっとあたりを確認してみた。

 当たり前、と言えば当たり前なんだけど、辺りには誰もいない………

 「…と、思っていたんだけどなぁ……」

 半分は父さんの言い付け、残り半分は持ち歩く事がクセになってしまっているおかげで、いまも鉄剣を腰に下げてる。その鉄剣の柄に右手を置いた。両足を肩幅くらいに開いて、
全身の力を抜く………ボクなりの警戒姿勢だッ。

 「いるんだろ、出てこいよッ」

 正直なところを言っちゃうと、強気な事を言ってるけど恐い!

 だって相手がいったいどんなヤツなのか、そしてどこにいるのか、実はぜんぜんわかっていないんだ!辺りに注意を払ったときに何か音がしたような、何かいるような気がしただ
けなんだから………

  ぱちぱちぱちぱちぱちっ!

 「ラウル君、大したものねぇ。絶対、気付かれていないと思ったのに」

 え?エ?え?

 こ、この声って………まさか?

 「アリア、さん?」

 「ぴんぽん、ぴんぽーん!ラウル君、正解!」

 驚いた!

 半ソデに膝までのパンツ、そして腰に布を巻きつけた、ラフな感じのアリアさんが森の中の小道から、手を叩きながら出てきたんだから!

 「アリアさん、脅かさないでくださいよぉ………」

 ボクは緊張が解けてどっと疲れが出てきちゃったよ……

 「あらあら、せっかくさっきまでカッコ良かったのに。しっかりしなさい、男の子でしょ?」

 「は〜い……ところでアリアさん、何でこんな時間にこんなところに来たんですか?」

 なんとなく、ボクをつけていたようなことも言ってるし………いったい何を考えてるんだろう?

 「あ、そうそう、忘れるところでした。

  ―――さてラウル君、背中出してみなさい!」

 ―――え……ええ?!

 アリアさん、いったい何をするつもりなのか、突然袖を捲り上げて力瘤作って見せてる?!

 「あ、あのいったい何を?」

 「ラウル君、ウチのリムを助けるときに背中に怪我しているでしょ?」

 「な、なななんのことでしょう?

  ボクは別に怪我なんて………ぜ、全然!」

 ―――な、何で知ってるんだ?!アリアさんはッ

 「ならそのシャツを脱いで見せなさい」

 「い!?そ、それはちょっと、その、エート、ちょっと恥ずかしいかな……とか」

 「自分で脱がないなら、私が脱がせますよ?」

 「えっと、それはちょっと、やめて欲しいなぁ……と」

 や、やばい……に、逃げようかな?

 でも、ここでアリアさんから逃げたからって、どうこうなるものでもないし……

 ―――なんてったって、今ボクが泊っている宿はアリアさんの家でもあるんだから……

 「三つ数えてあげるから、その間に考えなさい。ハイ、三!」

 「ち、ちょっと待って!」

 「早く決めなさい♪…二!」

 「な、何でそんなことするんですか?!」

 「ラウル君が、ウチの娘をかばって怪我しているからよぉ〜、壱!」

 「だ、だから怪我なんて……」

 「あら、そうかしら?」

 アリアさん、いきなりこっちに歩いてきたぞ?

 ま、まさかボクの背中になにかするつもり……い、意地でも背中を取られないようにしないと!

 「……何を逃げてるの、ラウル君?」

 「い、いえ別に…ほら、人と話す時は目を見て話せって父さん言ってたし、背中に廻られると目が見れないじゃないですか」

 ―――く、苦しいいいわけだけど、筋は通ってるぞ!

 「ふぅん、ラウル君がそういう事を言うなら、私も考えがありますよ」

 あ…ま、まずい、“あの朝”のアリアさんに近づいて来てる……やっぱり、ひとまず逃げた方がよさそうだ!

 「そ、それではボクは先に帰………」

 「あっリムが水浴びしてる!」

 ―――えっ?

 ボクが踵を返した直後、アリアさんの叫び声につい足を止めて振り向いて―――!

 「しまっ………」

 「おそーい!それッ♪」

  パアァァァァン!

 「うっ……ギャァァァァァァァ!」

 せ、背中の傷のところを、思いっきり叩かれた!!

 い、今のは一瞬意識が切れかかったぞッ!!!

 「ほら、やっぱり怪我しているじゃない。

  …はい零ね。それじゃ私が脱がせるわよ?」

 「……………」

 ―――い、痛すぎて何も言えない………

 ボクはあまりの痛みに何もできないでただ立っていた。その間に見事な手際の良さで、アリアさんはボクのシャツを脱がせてしまった。

 「うわぁ……これだけ厚く巻いてる包帯の上まで、血がにじんできちゃってたんじゃないの!よくこんな怪我をして今まで泣き言を言わなかったものねぇ……」

 「お、男の子ですから」

 「だからって、まったく無茶な事をして………」

 あ……背中になにか当たってる?

 後ろからアリアさんの両腕がまわって来て………ボクはアリアさんに後ろから抱きしめられた。

 「ち、ちょっと、アリアさん?」

 「大丈夫………お姉さんに任せて、しばらくそのままでいなさい」

 あ……アリアさんに抱きしめられていると、なんとなくホッとするような………

 なんだか、とっても暖かいな………

 ―――これが……お母さんなのかな………

 ―――父さんはこれを、この感じをボクに………

 「ラウル君、心を静かに落ち着けてみて」

 「はい………」

 返事はしたものの……ボク、初めての体験に何だかボーッとしてる………

 こんなに安心して何も考えていない時間があるなんて………

 「……………」

 「……………」

 ―――背中が暖かい………なにか流れ込んでくるような……

 ―――お母さん………

 「ラウル君、リムを守ってくれてありがとう………」

 「あ………」

 …そっか……そうだった。

 アリアさんは確かにお母さんだけど、ボクのお母さんじゃない。

 ―――リムちゃんの、お母さんなんだ………。

 「ラウル君、リムのために怪我のことを黙っていてくれたんでしょう?」

 「……………」

 ボクはアリアさんの問いかけに何も答えない。

 だってボクが怪我したのも、それを黙っていたのも、ボクが勝手にやっていることだから。

 ―――知らなければ彼女もボクも、幸せでいられる……

 そう考えたのは、ボクなんだから。

 “お母さん”が喜んでくれるのはうれしい……

 でも、アリアさんはボクの“お母さん”じゃない。

 やっぱりボクは、“お母さん”の笑顔が、喜ぶ顔が見たい。

 ―――少なくとも、まだここはボクの座るところじゃないんだ。

 「………アリアさん、もう動いてもいいですか?」

 「もう少し…待って。いま止めると傷痕が………」

 傷あと?

 そう言えば背中が痛くなくなったような?………!!

 「……アリアさん、まさかっ?!」

 ボクが驚いて振り向くと、汗だくの顔でアリアさんが微笑んでくれた。でも、その汗が教えてくれるように、アリアさんはかなり疲労しているみたいだ。

 「待ってって、言った、のに………」

 「アリアさん、“魔法”………使えるんですか?」

 ―――魔法………

 ―――ボク等がいう魔法って言うのは、本来妖精や精霊、そして妖魔たちの使う眼に見えない力。

 ―――時には炎を産み、水を操り、雷さえも呼ぶ事の出来る脅威の能力。

 でも、なぜアリアさんが?

 アリアさんは確かに獣人であって、妖精でも、当然精霊でもないのに?

 「私の家系、血筋はね、妖精のような事が、ほんの少しだけど、出来るの……もっとも、見てのとおり、とても、疲れるんだけど、ネ……」

 「だ、大丈夫なんですか?」

 「あんまり大丈夫じゃ、ないかも、こんなに長くやった事、初めてだったから………」

 「と、とりえず横になってくださいっ」

 「大丈夫、しばらく休めば、すぐに元気になるから……」

 とは言うけど、全然大丈夫に見えないよ。

 ボクにしがみついてやっと立ってるような感じじゃないか………

 「せめて座りませんか、アリアさん」

 「…そうね、このままの姿勢じゃ、ラウル君もきつくなっちゃうし」

 そう言うとアリアさんはそのまま“ペタンッ”と、尻餅をつくように座ってしまった。

 ―――よっぽどきつかったんだろうな………

 「さ、ラウル君も座って。もう少しやらなきゃ傷あとが残っちゃうから!」

 「エ!?

  もういいです、これ以上やったらアリアさん気絶しちゃいますよ!」

 「でもね、まだ完治していない今しないと、完全に傷あとを消す事なんて出来ないの。キチンとしないと、私がラウル君のお母さんに申し訳ないじゃない」

 お母さん……。

 アリアさんもお母さんだから、母親としての気持ちが分かるのかな………

 「いいんです、むしろ傷あとがあった方が………」

 「なんで?今を逃すと一生消せないのよ、その傷あと………」

 「初めて出来た友達を、守る為に出来た傷あとですから。だからこの身体に刻まれていた方が、ボクがうれしいんです」

 ―――もう、リムちゃんとはあと何度会う事が出来るか、わからないけど………

 「そっか……フゥ………それなら、もうオネーサンは口出ししないわ」

 「オネーサン?」

 「……なにか文句あるのかしら?!」

 「いえ、まったくありません!」

 ―――こ、こわ〜……

 「なんてね。どうのこうの言ってみたって、私もお母さんだものね。自分から“オネーサン”なんて言うのはちょっと恥かしいかな。フフッ………」

 「そんなことないですよ、ボクなんかリムちゃんと、歳の離れたお姉さんとしか思っていなかったですから、初めは」

 血のつながりがあるのか?ってすら思っちゃったけどね………

 「あら、ありがとう♪

  ………ところでラウル君はもう、お父さんから聞いたのかしら?」

 「二十日間程、アリアさんやリムちゃんと暮らす事……ですか?」

 「そう♪きっとリムも喜ぶわよ!

  もちろん私も大歓迎してあげる♪」

 「……………」

 「私もね、リムみたいな女の子も欲しかったんだけどその前にお兄さん、男の子が欲しかったのよねぇ。

  しばらくの間だけど、私の夢をかなえてね、ラウル君♪」

 「……………」

 「……ラウル君?」

 「アリアさん、ごめんなさい……」

 「え?」

 ―――アリアさんには悪いけど、ボクの気持ちはもう決まったんだ。

 「ボク、やっぱり父さんと一緒に行きます。

  父さん、ちゃんと迎えにくるって言っているし、ここで別れてしまったからもう会えない……そんなことはないのは、わかってんですけど………」

 「……………」

 「でもボクも、今までお母さんの笑顔を見たくて、父さんの背中を必死に追ってきたんです。今までの事、嘘にしたくないし………」

 「一息ついたからといって、誰もあなたの事を嘘ツキだなんて思わないわよ?」

 「……嘘ツキになっちゃいそうなんです、今ここで座ってしまうと。

  アリアさん、明るくて笑って怒って、ボクの思い描いていたような理想の“お母さん”………だし、

  リムちゃんみたいな………妹、欲しいと思った事もあったし、

  タクやみんな、それにお手伝いしていた時に会った村の皆さん、みんないい人でしたから………いまここに一度座ると、もう“ボクの”お母さんのところまで歩けないような気
がして」

 ―――そう、これがボクの正直な気持ち。

 「だから、ボクは父さんと一緒に行こうと思ったんです」

 ―――そしてこれが、ボクが選んだ事なんだ。

 ―――人に分けてもらうんじゃなくて、自分で………

 「そっか……せっかくリムが、女の子らしくなってくれるかな〜って思ったのになぁ」

 へ?

 ボクと、リムちゃんが女の子らしくなるのと何の関係があるんだろ?

 大体、リムちゃんって十分カワイイと思うけど………

 「オネーサン、残念だけど……ま、ラウル君がそう言うならしょうがないか!」

 「ごめんなさい……」

 ―――でも、何かアリアさんって、初めて会った時と変ったよなぁ……

 ―――もっと物静かな感じだと思ってたけど、これが“地”なのかな?

 「それじゃあ、私は先に家に戻るわね」

 「あ、ボクも―――?」

 先に立ちあがったアリアさんに続いてボクも立ちあがろうとして、そのアリアさんに肩を押さえられてしまった。

 「あの、立てないんですけど……」

 「ラウル君はそこで水浴びしてから来なさいよ。怪我のせいでここ二日間は水浴びしていないでしょう?もう水を浴びても、怪我はしみたりしないはずよ♪」

 あ、そういえばそうだけど……ボク、タオルとかもって来ていないよ?

 「あの、ボク、タ………」

 「タオルでしょ、はい」

 アリアさんは腰に巻いていた厚手の布、大きなタオルをボクの肩にかけてくれた。

 「あ、ありがとうございます………」

 「怪我の治療したら水浴びさせてあげようって思って、初めからそのつもりで持ってきたの。本当は歓迎パーティーでも考えていたから、ラウル君がいなくなっちゃうのは残念だ
けど………」

 「……すみません」

 「もういいの。頭下げてないで、自分の考えを通すんだからちゃんと胸張る!

  ラウさんも“ラウルの気持ち次第ですから”って言っていたんだから。君は何も間違っていないんだゾ♪」

 「……はい!」

 「よし、いい返事だよ♪

  君のお父さん、ラウさん、今日の昼にはもう出発するつもりみたいだから、水浴びしてスッキリしたら、ちゃんともう一度寝ておくのよ!」

 「父さん、明日って言っていたのに………」

 「大丈夫!オネーサンがちゃんと起こしてあげるからッ」

 なんだか不思議な人だな、アリアさんって。

 魔法使えて、優しくて、怒ると恐くって、オネーサンで………

 ―――お母さんって、こんな感じなのかな………

 

☆ リムeye ☆

 「アリアさん、明るくて笑って怒って、ボクの思い描いていたような理想の“お母さん”………だし、

  リムちゃんみたいな………妹、欲しいと思った事もあったし、

  タクやみんな………」

 あ、あたし、いもうと?

 ………妹にみられてたの?

 たった一つしか、歳は違わないのに?

 ―――………ラウル君の、バカー!鈍感!!

 ―――●▼×●■◆×▲■●!!!(放送を控えさせて頂きます…)

 はぁはぁはぁ

 こ、声に出さなくても、何となく息切れしちゃった。

 ―――でも

 ラウル君、もうすぐいなくなっちゃうのかぁ………

 あたしは………

 あたしは、どうすればいいんだろ?

 ―――ラウル君の事、どう思ってんだろう……あたし。

 ドジで、馬鹿正直で、結構強くて、何度も助けてくれて………

 そしてあたしのこと気遣って、怪我したことまで隠していてくれてた。

 ―――ラウル君が、あたしのことを好きだって言ってくれれば、このリボンを手に巻いてあげられるのに………

 「じゃあ、私は帰るから。ちゃんと身体洗ってスッキリしてくるのよ?」

 「ハイ、ありがとうございます。アリアさん」

 あ!

 ま、まずい、お母さんがこっちに来るッ

 急いで隠れなきゃ!

 大人しくしていなさいって言われてるのに、こんな所で盗み聞きしてるのがもし見つかったらどんな怒られ方されちゃうか………

  ぶるぶるぶるっ

 そ、想像しただけで冷汗が出てきゃう!

 今度はラウル君に助けてもらうなんて事も出来ないし、とにかく見つからないように隠れなきゃ!

 えっと、えっと……とりあえずこっちの茂みに隠れとこ。

 木登りは得意だから木の上がいいかも……って思ったけど、このお気に入りのパジャマは汚したくないから!

 「……………」

 「……………」

 「……………」

 ―――お、おかしいなぁ……

 「……………」

 「……………」

 「………お母さん、来ないなぁ??」

 「もう来てるわよ、後ろに」

  びくぅ!

 ま、まさか……そんなぁ………

 「お、おはようございます、お母様……」

 「まだ夜よ。それに、挨拶するときはちゃんと相手を見てしなさい。

  まったくあなたって子は………“二度ある事は三度ある”とか言うけれど、リムの場合は“三度目の正直”かしらね?」

 へ?

 お母さん、なに言ってんだろ?

 「一度目の早朝も、二度目の洞窟の中での事件の後も、ラウル君が助けてくれたけど………」

 「あ………」

 「そのラウル君はもう水浴びに行ってしまったし、リムちゃんは三度目にしてついにお母さんのお仕置きを受ける事になるのネ♪」

 「あのぅお母様、あたしまだ頭の怪我が治っていないのでお部屋に戻りますぅ………」

 「まちなさい」

 お母さんを刺激しないように“そぉ〜〜っ”と立ちあがったあたしの右肩を、後ろからお母さんにしっかりとつかまれちゃった………。

 ―――に、逃げられない〜〜〜ッ

 「お、お母さん、あたし………」

 「あなたが行くのはそっちじゃなくて―――」

 あたしの右肩をつかんだお母さんは、村に戻ろうとしたあたしの身体を“グリンッ”と反転させてしまった。

 「―――こっちでしょうが」

 「………あれ?

  お母さん、こっちって………」

 無理やり身体を回されちゃって、ちょっとビックリしてクラクラするけど……これって水浴び場のほうだよ?

 「あなたはあなたで、ちゃんと御礼を言わなきゃだめでしょう!

  それに、あなた自身の気持ちもハッキリさせなきゃね!」

 ―――え?

 「リム……“好き!”って言う気持ちはね、今その時にハッキリさせないとだめなの。

  ただ“好き”なのか、自分が“恋”しているのか?」

 「お母さん………“恋”ってどんなの?」

 「そうねぇ……それは自分で考えてみなさい。それがわからないうちは、まだあなたが“恋”をした事がないという事だから」

 「知らないのに、わかるの?」

  恋している時に“ああ、あたしは恋をしているんだ”ってこと………恋をした事がないあたしにも、教えてもらわなくてもわかるの?

 「大丈夫よ、恋は頭でするものではないから……きっとあなたにもわかるわ」

 「…あ……」

 ちょっと不安になってたあたしを、お母さんが抱きしめてくれた………。

 ―――お母さん……とっても温かい………

 「あなたは若いんだもの。今は自分の思うままに動いてみなさい………

  でも、リボンをあげる時は、その意味を忘れちゃ駄目よ?」

 「お母さん?」

 「改めて考えてみれば、ただの言い伝えにすぎないかもしれない。それでもあなたが今まで思いつづけてきた気持ちは本物なのだから………」

 「おかあさん………」

 「ラウル君は、おそらく今日の昼にはこの村からいなくなってしまうわよ!

  リム、後悔したくなかったら、彼のところにいってらっしゃい♪」

 「………ウン!」

 ―――ありがとう、お母さん!

 お母さんに応援されて、走ってきたんだけど……

 「………困った、非常に困っちゃった」

  バシャバシャバシャ!

 あたしは茂みの向こうに水を浴びる音を聞きながら、腕を組んで右に左にとその場をウロウロしているんだけど………。

 ―――ど、どうやって話しかければいいのか、キッカケがつかめないよぉ!

 こ、こんな男の子が水浴びしている側で腕組んでウロウロしているなんて、誰かが見てたらどんなに思うだろう………

 「……ヴ〜ン、どう考えてみても良いようには見てくれないよねぇ。あああっどうしよう!?」

 この茂みの向こうにラウル君がいるのに、色々お礼とか、話したい事があるのに〜〜!

 やっぱり出てくるまで待つしかないのかなぁ?

 でも、もうあんまり時間ないよぉ!

 思い切って飛びこんじゃう?

 この間はラウル君が飛び込んで来てタオル一枚のあたしに抱き着いてきたんだから、今度はあたしが同じことしたって別にいいよね?

 「……………」

 この間の“お返しだーッ”とか言ってさ!

 「………」

 それに別にパジャマを脱ぐ必要ないから……

 「……あたしは、恥かしくないし!」

 「………もしもし?」

 「で、でも、ラウル君は裸……?」

  かあぁぁぁぁっ!

 キャーッキャーッ

 想像しちゃったーー!

 「想像ヤメ!消えて消えて、き―――」

 「あのさ、さっきからなにやってるの?」

 え………!

 声をかけられて振り向いてみたら、たったいま慌てて消したつもりのラウル君が、首にタオルをかけて………

 ―――ラウル君のは、はだ……ハダカ!

 「キャーーッ」

 あたしは両目を閉じて、思いっきり両手を振り上げて………

 「いっ?!ち、ちょっと、まさか!

 「消えてって言ってるのにーーー!

  ばっこん!

 あたしは上にあげた両手で拳を作って、消えてくれない想像のラウル君に思いっきり叩きつけた!

 ―――………あれ、なんで手応えがあるんだろう?

 今のハダカのラウル君はあくまであたしの想像のはず―――

 「り、りふひゃん、いひなひ、なんふぇ…ふぉんなふぉひょ………」

 「あーーー!ら、ラウル君ゴメーーーン!!」

 い、いまぶん殴ったの、本物のラウル君だったんだ!

 ラウル君、あたしの渾身の一撃をまともに食らって、目を廻しちゃってる!

 ―――もぅ、あたしのドジーーー!

 

☆ ラウルeye ☆

 ……住ん………

 ………大事…

 …して……

 ……

 …いててッ

 まさか同じ所で、同じ娘に二度も殴られるなんて………

 相性がいいのか、悪いのか……わっかんないよなぁ、リムちゃんとは。

 また思いっきり、それも両手で殴られたもんだから、後ろ頭にコブが………あれ?

 まだボーっとしているからかな?

 星空の中に丸い影………

 ―――手を伸ばせば簡単に届くところに、人の頭があるような………

 「あ、ラウル君、起きた?」

 「り……リムちゃん?」

 明るい月と、星空を背景にした、リムちゃんが………月明かりの影で優しく微笑んでた。

 ―――ボクが手を伸ばせば、その頬に触ることのできる―――そんなすぐ近くに。

 「後ろ頭、まだ痛い?」

 「え……あ、うん、ちょっと―――」

 気がついてみると、ボクはリムちゃんに声をかけたときと同じ、ズボンだけはいた上半身は裸のままで草原に寝かされていた。水の落ちる音が聞こえるし、きっと洞窟や水浴び場
の側なんだと思う。森の中では空の開けているこの辺りにしか、下草は生えていないはずだから。

 そしてボクの頭の下には厚みのある、なにか柔らかいものが枕として敷かれているみたい………

 「ちょっと待ってね、もうしばらく唱えればきっと痛くなくなると思うからッ」

 「唱える?」

 「うん!お母さんが教えてくれたの、傷が痛くなくなって楽になる歌なの♪」

 ≪精霊さん♪

 ≪精霊さん♪

 ≪私の中に住んでいる精霊さん♪

 ≪あたしの親しいこの人の、痛い痛い傷を癒してあげて♪

 ≪あたしはこの人の笑顔が見たいの♪

 ≪お願い精霊さん………♪

 へぇ……ボク等の身体の中にも“精霊”がいるっていう歌なのか……

 子守唄ってわけじゃなさそうだけど………

 ―――いいなぁ、なんとなく………

 だって、空はキラキラ輝く星空。

 優しい光で辺りを蒼く照らす丸い月。

 柔らかい枕に頭を預けて、静かな森の中でボクのために微笑みながら歌ってくれる女の子を見上げてるなんて………

 ―――あれ?

 何でボクはこんな近くから、リムちゃんを見上げることが出来るんだろう?

 ボクが地面の草の上に寝ているということは、リムちゃんも座っているはずで………

 ―――ひょっとして………

 座るということは、絶対に膝を曲げるということで………

 ボクは彼女のほぼ正面で、足を伸ばして寝ているわけで………

 ―――この枕って………

 「ゴメンね、あたしが勘違いしたもんだから………」

 「へ?」

 この枕の正体が見えてきて、ボクが“男”の子として緊張してきた時に、突然リムちゃんがボクに謝ってくれた。空にある星の輝きや月の明かりを背中で浴びている彼女のその表
情は、下から見上げてるボクには逆光で半分しか見えなかったけど―――

 「ボクを思いっきり殴っちゃったこと?大丈夫、全然怒ってないから」

 「本当?だって二度目なんだよ?」

 「本当だよ。大体一回目はボクの方が悪かったんだから」

 「ありがとう♪

  ………ちょっとだけ、ホッとしちゃった♪」

 ―――うん、やっぱりリムちゃんは元気な笑顔じゃないと♪

 さっきの半分だけ見えてた暗い顔より、ちょっと顔を上げて月明かりに照らされてる今の元気な笑顔の方が、リムちゃんは絶対いい♪

 「でも、勘違いって……何を間違ったの?」

 「え、えへへ、え〜と、ラウル君が服着ていなかったもんだから………あたし、てっきり“裸”だと思っちゃって」

 なるほど。

 確かにボク、ズボンだけで上は裸だったもんなぁ……間違えられてもしょうがないかも………あれ?

 でもリムちゃん、あの時“消えてッ”って言っていたような………?

 「………………」

 「どうかしたの?まだ、ひどく痛いの?」

 「……ま、いっか」

 「よくないよッ痛いならちゃんと言ってよ!」

 「あ、違う違う、全然もう痛くないから」

 「でも、今……」

 「全然別のこと、ちょっと気になったもんだから考えてただけ」

 「本当?」

 「本当だよ。頭の方はもう痛くないよ」

 「……よかったぁ」

 ボクを真上から見下ろしてるリムちゃんに笑って見せたら、ようやく彼女も表情を穏やかにしてくれた。

 本当に心配してくれているんだなぁ………

 わかっているつもりだったけど、こうしてリムちゃんの顔を近くから見ていると実感する。

 ―――やっぱり、言わなきゃいけないよね………お昼には、この村を出ることになるだろうってこと。

 ―――初めて出来た、友達だから。

 「……………」

 「……………」

 「……えっと…」

 い、言い出しにくいな………やっぱり。

 今まで旅立ちのことを伝えたことなんて、伝える相手なんていなかったから………

 「………ね、ラウル君」

 「な、なに?」

 「ラウル君は……お父さんとまた旅に出るの?」

 「うん………」

 なんとなく、辛い………

 嘘でもいいから、ここにいるって言いたくなってくる………

 でも、そう思ってしまうから今日、ボクは父さんについて行く事にしたんだ。

 「出発は、お昼前だよね………」

 「………なんで、知ってんの?」

 「お母さんに、教えてもらったから………」

 「そっか、アリアさんかぁ……」

 「ラウル君、どうしても……行っちゃう?」

 「……うん。父さんと今までがんばってきたんだ、母さんの笑顔を見るんだって言って………

  それを、嘘にしたくないから」

 「……………」

 「あの部屋を借りている間、たった数日だったけどいろいろなことがあって、とっても楽しかった。そのせいで怪我したり、怒られたりで、あまりいいことなかったリムちゃんに
は悪いと思うけど………」

 「あたしのは……あたしが悪いんだもん。怒られるのはしようがないよ。それにラウル君が助けてくれたから今、あたしは笑えるんだし………」

 ―――そうだった。ボクの剣が人を助けたのは、リムちゃんが初めてなんだった………

 「ねぇラウル君、この村は、楽しかったんでしょ?」

 「うん。今まであっちこっち行って来た中で、ボクにとっては一番楽しい村だったよ。

  沢山思い出もできたし………」

 「ならさ、もう少しこの村にいてよ!

  あたし、この森の中のことならいろいろ知ってるし、もっといい所にも案内してあげるよ!」

 「……………」

 「お母さんに頼んでさ、お弁当作って毎日ピクニックしに行こうよ!

  いろいろなところに連れてってあげるからさッ」

 「……………」

 「外の世界ならラウル君はいろいろなところに行ったんだろうけど、この森だって結構広いんだから!」

 「……………」

 ―――やっぱり…辛いよ、お別れするって………

 あれだけニコニコしてたリムちゃんが、ボクが何も言えないでいるだけでどんどん必死な表情になっていくんだもん………

 何かに負けそうになる自分を、必死に追い払おうとしているみたいに。

 ―――それも、ボクのために

 「見所もたくさん、あるんだから………もっと沢山思い出つくろうよ、ネ!?」

 「……………」

 「ラウル君………」

 「………ゴメン」

 これしか、言えないよ。

 今のボクじゃ………

 「………イヤッ!行かせないから!!」

 「え?り、リムちゃ………」

 突然大きな声を上げたリムちゃんが、寝たままのボクに覆い被さって………頭を両手でしっかり抱きかかえられて、胸と膝で挟まれてしまった!

 「絶対行かせないッ行かせてあげないから!」

 「り、リムちゃん落ち着いて………」

 ―――ち、ちょっと、なんで、いきなりこんな………

 普通なら悪い気はしない―――というよりうれしいけど、今はそんなことを思ってる余裕なんてないよ!

 「イヤッ!イヤだイヤだイヤだイヤだイヤーーーッ!

  ずるいよ、ラウル君!あたしばっかりこんな気持ちにさせてさ、ラウル君は何ともないなんて………」

 「リム……ちゃん………」

 ―――また……だ。なにか変な気持ち―――とても息苦しいみたいな………

 ―――そうだ…なんともないなんて………そんなことない。

 ずるいのはリムちゃんの方だよ……なんともないなんて、あるわけないじゃないか。

 やっと、わかってきた―――どんな時にこんなに息苦しくなるのかが………。

 「あたしね、いまやっとわかった事があるの………」

 リムちゃんはボクの顔をしっかりとつかんだまま、覆い被さっていた上半身を起こしてくれた。やっと開くことの出来たボクの目に映ったもの、それは―――

 ―――リムちゃん、泣いてる………

 「あたしのお父さん、出稼ぎで家にいない事が多いの。だからお父さんが帰ってきた時、お母さんとてもうれしそうにしてるんだ♪

 でもお父さんはしばらくするとまた出稼ぎにいく日が来る。その日が近くなるとね、お母さんいつもこの膝を枕にするのを、お父さんにしてあげてた」

 「……………」

 「あの時は全然わからなかったけど、今ならよくわかる気がする。お母さん、行かせたくなかったんだね。お父さんと離れたくなかったんだって」

 「リムちゃん………」

 「だってこのまま頭をしっかり押さえてたら、きっとお父さんもラウル君もどこにも行けないもん。

  それに………」

 「………それ…に?」

 「…あたしがこうしてラウル君の頭を押さえていたら、ラウル君は何も出来ないよね。でも、あたしはこのままでも出来る事が一つあるんだよ。

  お父さんとお母さんがしてた事……知りたい?」

 「……あ…」

 リムちゃんはゆっくりとボクに顔を近づけて来て、そして眼を閉じた。

 そんな彼女にボクは―――

 「ストップ、リムちゃん」

 鼻先が霞めて彼女の唇がボクに届く直前に、その間に人差し指を一本入れて彼女をとめた。

 あまりに近くて、お互いの瞳がボヤけて見える距離―――

 「なんで……止めちゃったの?なんでお母さんと同じことさせてくれないの?あたしは、お母さんがお父さんを思ってるみたいに、ラウル君のこと―――」

 「ズルイよ、リムちゃん」

 「ずるい?あたしが?」

 「君ばっかり気持ちを表に出してさ、これじゃボクの気持ちがわからないじゃないか」

 「だって………」

 「ボク等はまだ会って間もない友達だよ」

 「でも、あたしの気持ちはもう!」

 ほとんど“ゼロ”の距離にある彼女の瞳を見ながら、ボクは必死に平静を保とうと一つ深く息を吸って………ボクの頬にある彼女の手にボクの手を重ねた。

 「ただ、普通じゃない。リムちゃんはボクにとって、とても特別な友達だよ。

  でも今日の昼には、ボクはリムちゃんの前からいなくなる事に変わりはないんだ」

 「あたしは………」

 「落ち着いて。一つ約束しようよ、リムちゃん」

 「約束?」

 「そう。今のボクじゃリムちゃんを連れて行くことも、ここに残ることも出来ないから。

  リムちゃんが大人になるときにもう一度、ボクは必ずこの村に来るよ」

 「え………」

 「リムちゃんを本当に守れるようになって帰ってくるから、その時に今の続きをして欲しいな」

 「今でも、十分守ってくれてるのに………」

 「ううん、一つ間違えばボクもリムちゃんもあの洞窟から出られなかったかもしれない。もう、見たんでしょ?ボクの背中………」

 ボクはいまズボンしかはいていない。

 この姿のままでリムちゃんに殴られてまた気絶してしまった………いま思うと本当ドジだと思う―――あれだけ苦労して隠していたのにさ。

 「あたしを守ってくれたから、ケガしたんだよね………」

 「それだけじゃないんだ。いや、それはそれでもいいんだけど………

  その後の大モグラに体当たりしたときも、賭けに勝っただけでボクはリムちゃんを確実に守れていたわけじゃないんだ。今回は運が良かったんだよ、ボク達」

 ―――でもそれじゃ、駄目なんだ!

 ―――それじゃリムちゃんを連れて旅なんて出来ないから………

 父さんには悪いけど、ボクの夢が決まった!

 もう、親子三人でじゃ、旅は出来ないよ。

 きっと!

 「………じゃあ、約束を守れなかったときはどうしてくれるの?」

 「え?」

 「あたしを守れるようになって帰ってきてくれるって約束!」

 ―――か、考えてなかった………

 「え、えーと………」

 「まず浮気してたらその顔、バリバリにしてあげる♪」

 ―――って言いながら笑顔で爪構えるのやめてよ……。

 まるでアリアさんじゃないかぁ………

 ―――あ、考えてみれば母子だっけ!

 「そ、そんなことあるはずないよ!」

 「わかんないもん、男の子ってスケベだから!ラウルだって言ってたじゃん、

  『不幸が重なり合って起きた、実に幸運な事故だったんだって!』

ってさ!」

 「………よ、良く覚えてるね…」

 「こうも言ってたよね?

  『助かった上に、柔らかかったので、その、得した気分というか♪』

って。これは初めて会ったときだけど」

 ―――な、何でそんなこと覚えてるんだよ〜〜〜!

 「わ、わかったよぉ、もしも本当に他の女の子と仲良くしていたら覚悟しとくから………ありえないと思うけど」

 「そうそう♪浮気なんてしてなきゃ何もないんだから♪」

 「………でも、浮気なんて言葉、どこで覚えたの?ボクは父さんに言い寄って来る女の人達から聞いたんだけど………」

 「………それで、おじさん、浮気したの?」

 「と、父さん?ぜ、全然してない……と思う。何人かの女の人と食事くらいはしてたけど―――」

 「………ラウル君も、そこまでは許してあげる。

  けど!」

 「け、けど?」

 「間違っても同じ部屋で寝泊りしたらダメッだからね!

  あたしにはわかるんだから!そんなことしたら、覚悟してなさいよね!!」

 「す、するわけないよぉ……」

 ―――イ、イタッイタタッ!

 お、お願いだから、ボクの頬に爪を食い込ませないでよーーー!

 「……ラウル君……眼、見せて」

 「今ボクの顔の自由を奪ってるのはリムちゃんだよ……」

 「……あたし、信じてるからね。ラウル君を………」

 ―――あ………

 リムちゃんはしばらくボクの眼を見て、最後にボクの右頬にキスしてくれた。

 “次は真ん中だよ♪がんばって帰ってきてよね!”

って消えそうな声で言いながら………

 朝から昼へ移っていく………この間の時間が地上の色々な生き物のとってもっとも元気のある時。そしてそれはこの森もやっぱり同じみたいだ。初めてこの森に入ったときも、ち
ょうど今くらいの時間でとても活き活きしていたから。

 「ラウル、本当に良かったのか?」

 ボクはいま、父さんと一緒に村を出発してきたばかり。

 来るときはヘロヘロになっちゃった坂も、帰りは下りだからすごい楽だよ。

 「リムちゃんとは仲良くなれたんだろう?見送りには来てくれなかったようだが……」

 「………」

 今朝、まだ日が昇る前のリムちゃんとのことは、父さんには話していないんだ。

 だって、やっぱりなんか恥ずかしいから。女の子と………その……つまりそういうことだよ、わかってくれるよね?

 見送りに来てくれなかったことは、別にいいと思ってる。

 ボク達が家に帰ったのはもう朝日が顔を見せたころ。ボクはそのまま出発の準備を始めたけど、リムちゃんはきっと眠っただろうし、眠ったんならこんな昼前には起きてこれっこ
ないから。

 「いいんだ、別に。もうリムちゃんとは、お別れはしたつもりだから………」

 「そう言えばお前、夜中に部屋を出て行っていたな?」

 「気付いてたの?」

 「まぁな。で、なにかあったのか、その後?」

 ボクは内心で苦笑してる。だってボクなりに足音も、“気配”っていう存在感も消していたつもりなのに父さんはちゃんと気付いていたんだから。

 「別に……星空の下の蒼い世界で、しばらく話しをしてただけだよ」

 「蒼い世界?

  ………そうか、そろそろ満月か。積極的だっただろ、リムちゃん?」

 ―――え?………そう言われてみれば、膝枕してくれたりとか、自分の感情を思いっきりぶつけてきたり………でも、なんでわかるんだろ?

 「人は月の満ち欠けで心情的に変化………つまり、心が高ぶったり、落ち込みやすくなったりするからな。満月の夜は誰でも心が高ぶるもんだ。その中でも、月明かりを浴びたも
のが蒼く染まって見える“蒼夜月”は特に私達獣人の心高ぶらせる」

 そっか、それでリムちゃんもあんなに………。ボクが父さんと旅に出るって、ゴメンって言った途端にあんなに激しく弾けちゃったんだ。

 あれ?

 リムちゃんに比べると、まだボクは割りと落ち着いていたような気がするけど………

 確かにボクも普通よりは落ち着かなかったし、どこかソワソワしてたけど……それってリムちゃんの気持ちをぶつけられてだし………

 「どうした、ラウル?」

 「あ、うん。“蒼夜月”って………」

 「天に昇った人たちに再会できる夜、そんなことも伝えられているんだ。年に何度とない不思議な夜なんだゾ。運が良かったな、ラウル」

 「べ、別になにかあったわけじゃ―――」

 “―――ないから…”と言おうとしてボクは口を止めた。

 ボクと父さんの歩くこの森の小道の数メートル先、麦藁帽子をかぶった少女が小道の脇の木に寄りかかって立っていたんだ。森の木々の、風に揺れる木の葉の合間から降り注ぐ太
陽の輝きの中で、彼女の着ている鮮やかな黄色のワンピースがとても綺麗で―――

 「どうした、ラウル?」

 「父さん、あれ………」

 「ほう……上品な感じのお嬢さんだな。あの様子だと誰かを待っているようだが………」

 確かに父さんの言う通り。麦藁帽子の少女はその手に淡い若草色の小さな袋を持って、この道から良く見えるところに立っているんだけど―――

 「ひょっとして眠っていないか、あのお嬢さん?」

 「うん、ボクもそう思う………」

 麦藁帽子の女の子………ボクと同じくらいの歳の子だと思うんだけど、さっきから木に寄りかかったまま首をコクンッ、コクンッて繰り返してるんだよね。

 「とりあえず起こした方がいいよね?」

 「そうだな。それほど危険とも思えないが、一応お前がケガした大モグラのこともあるからな」

 そう言いながら、父さんはちょっと離れたところにある岩に座ってしまった。

 つまりボクが起こせってこと?

 しょうがないなー、もぅ………

 「もしもし、こんなところで寝ているのは危ないですよぉ………もしもーし!」

 「………」

 ダメだ、全然無反応………

 ちょっと身体を揺さぶってみるかな?

  ゆっさゆっさ……

 「もしもーし!もしもーし!」

 「………ラウル、寝てる人を、それも女性を起こす時ってのはよぉーく注意した方がいいぞ?

  それにお前、そのお嬢さんになんとなく見覚えないか?」

 「冗談言わないでよ、父さん」

 こんな服装が良く似合う、とっても綺麗な人なんて………ボクはお母さんとアリアさんくらいしか知らないよ。でもアリアさんとは別れたばっかりだし、お母さんはまだ寝てるは
ずだし。それにアリアさんやお母さんとは、全然歳が違いすぎるよ。

 「ボクと同じ歳くらいじゃ、こんなカワイイ服の似合う女の子………」

 「……………」

 ボクは何かいやな予感がして口を閉じた。

 良く考えてみれば、父さんがあんな離れたところに座ったのも、わざわざあんなことを聞いてくるのもおかしい!

 ひょっとして本当にボクの知っている娘?

 でも誰だって言うんだろ?

 この村で一番印象に残っているのは、アリアさんと初めて友達になれたリムちゃんくらいだけど………アリアさんはさっきも思ったけど見送ったくれたばっかりだし。

 「リムちゃんがこんな服を着るなんて、とても思えな―――」

 「ふぁ……あ〜ぁ………」

 疑いつつもリムちゃんかどうか寝顔を見てみようと、ボクが麦藁帽子のツバの中を覗き込もうとしたのとほぼ同時に少女が大きなあくびをした。

 突然のことについ条件反射で跳び下がったボクが次の瞬間聞いたものは―――

 「………あ……あー!やっと来た!ラウル君、おそーいッ」

 「エッ?ま、まさかリムちゃん?!

 「まさか……って、どーいう意味よ、それ?!」

 「い、いや、深い意味はないんだけどね」

 ―――正直、驚いた!

 だってボク中のリムちゃんって言ったら、いつも外でタク達男の子と遊んでたんだろうなぁ……って想像させられる、土色に汚れたチョッキと短いスカートのワンピ
ース姿だもん。そのリムちゃんが、スカートの丈の長い鮮やかな黄色のワンピースと、綺麗な透明の石をさげたネックレスをして、両手でかわいい袋を持って待ってる
なんて………

 「夢でも見てるみたいだよ、やっぱり」

 「ラウル君、あたしが女の子らしくしたらそんなに変?!」

 や、やばい!

 「そ、そんな事ないよ、全然!」

 「……………」

 うう〜思いっきり疑ってるよぉ、あの眼は。

 どうしよう………

 「……ラウル、父さん先に麓で休んでるから」

 ―――え?父さん、ちょっと………

 「もしお前に迷うことがあるなら、意固地になったりせずに素直に考えるんだぞ?」

 アリアさんやリムちゃんの親子としばらく一緒に過ごすってのを、もう一度考えてみろってこと………なんだろうな。

 ―――そりゃあ、ボクだってそうしたくないわけじゃないけど………

 「………わかったよ、父さん。でもちゃんと麓で待っててよね。

  そのまま行ってしまうなんて反則はなしだよッ?!」

☆☆

 「えっと………さっきのは、まあ、いいや」

 父さんが先に下って行ってしまって、その姿が見えなくなってしまってから最初にリムちゃんが言った一言がそれだった。

 ―――え?

 「せっかく仲良くなれたのに、ここでケンカしたらまたケンカ別れになっちゃうもんね。それじゃラウル君、帰ってきてくれなくなっちゃいそうだから」

 ボクが良く意味を理解できずに戸惑っているうちに、リムちゃんは手に持っていた小さな袋から自分がしているのと同じようなネックレスを取り出していた。

 「本当はリボンをラウル君の手に結んであげてもいいと思ってたんだけど………このネックレスをラウル君にあげる」

 いったい何をどう解釈すればいいのか、ボクが戸惑っている間にリムちゃんは近づいてきてそのネックをかけようとしてる。リムちゃんは左右から両手をボクの首の
後ろにまわすもんだからお互いの顔がすごく接近しちゃって………ついボクが後ろに下がろうとすると―――

 「下がったらダメ!つけられないよ、ただでさえラウル君の方が背高くてあたしは背伸びしてんだからッ」

―――と怒られてしまった。

 父さんも先に行ってしまって、ボク等を見ている人はいないのだから、恥ずかしがる必要はないんだけど………やっぱりちょっと緊張する!

 「このネックレスについてる透明の宝石にはね、約束を守ることが出来るお守りなの」

 リムちゃんとお揃いの、このネックが?

 これが約束を守るためのネックなら、ボクはともかく彼女の約束っていったい………

 「ラウル君のは今朝の“あたしが大人になるまでに迎えに着てくれる”ってのを守ることが出来るようにお願いしているの」

 ―――あれ?ちょっと違うような………まぁ、大差はないけど………

 「あたしのは、あたしが大人になるまでちゃんとこのリボンを守ること………」

 いったいそれがどんな意味を持つのか、少なくとも今のボクには良くわからない。

 だって、結局リボンの意味は教えてもらってないから。

 でも、それで今はいいと思った。きっとその時がくればわかるから………

 「ラウル君、ちゃんとあたしが大人になる前に帰ってきてくれるよね?」

 「大丈夫、きっとまたこの村に来るから」

 「きっとじゃダメ!ぜったい、あたしが大人にになるまでにッ」

 なんとなく、こうしてリムちゃんを見ていると………今朝のあれは父さんの言う“蒼夜月”でなくても、ああなっていたような気がする。

 「………大丈夫。ボクは絶対この村に来るよ」

 「じゃあ……それまでお別れだね………」

 ―――お別れ………

 その言葉を言ってうつむいてしまうリムちゃん。

 その彼女をなんとか元気付けようと思ったボクに、ちょうど良い言葉が浮かんだよ。

 「リムちゃん」

 「?」

 「ボク等にとって大人になるまでなんて、あっという間だよ。お別れなんて言葉、必要ないよ」

 「じゃあ、なんて言うの?」

 「そうだね………また会う約束しているんだから、“またネ”で十分さ!」

 「またネ?」

 それを聞いたリムちゃんが、ちょっと目を丸くした。

 きっとリムちゃんが村のみんなと別れる時に使ってる、そんな軽い“また明日も遊ぼう♪”って感じの言葉だと思う。

 「そう、またネッ」

 「………うん、わかった!」

 「じゃあ……リムちゃん」

 「………ラウル君」

 『またネ!』

 

 

 

 

☆ エピローグ ☆

 

 「それで二人はどうなったの、じいちゃん?」

 「それっきりじゃ」

 「えー?!」

 「うそじゃ」

 「……あのな、じいちゃん!」

 「年寄りの可愛い冗談じゃ。ふぉふぉふぉ

  誰もがそんな小さな事件があった事を忘れてしまって久しくなったころ……5〜6年ほどはたっとったかの……二人は再会するのじゃよ」

 「で?♪」

 「後は明日のお楽しみじゃ。今日はもう寝なきゃいかん時間じゃて」

 「えー!、もっとお話聞かせてよ!」

 「だめじゃ。今日はもう寝るのじゃ、じゃないともう話しを聞かせてやらんぞ?」

 「わかったよぉ……でも、まさかじいちゃん、夜のうちに明日の話しを考えるつもりとか?」

 「ふぉふぉ、面白い事を考えるの、カイトは。

  この話しは本当にあった話しじゃて、ワシはただ思い出すだけで、続きを聞かせてやる事は出来るんじゃよ」

 「そっかあ、じゃあまた明日続きを聞かせてね!

  おやすみ、じいちゃん」

  ぱたんっ

 「……行ったかの?

  話しが実話だと言う事は本当でも、遠い昔の事……ワシも日記でも読まぬ事にはなんでもかんでも正確に思い出せるわけではないからの。しばらくは眠れぬ夜が続きそうだわい
……」

 老人は苦笑しながら、それでも楽しそうに膝の上のノートを再び開いた………

..........to be continued...........

THE REAL WORLD   First Season
“ひと夏の出来事……”

第三章 またネ!

 

作者 TL  シナリオ・設定協力 フウスケ様 Chika様

とりあえず、終了♪ 次回に続くよ〜(^_-)


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