THE REAL WORLD  Second Season 「麦藁帽子の下で……」
[ 第十一章 ☆ 王子様? ]

 ………辛い…の……
 (………なぜ?)

 ……………
 (なぜ、辛いの?)

 ……………
 (なぜ?)

 ………守…なか…
 (………なに?)

 …あたし……れな……
 (隠したらダメ―――ううん)

 ………
 (あたしに隠そうとしても意味がないのは、知っているでしょう?)

 ………
 (言って。あなたは言わなくちゃいけない)

 ……あたし、守れなかった………
 (………)

 あたし、守れなかった……よ…

 ☆ タクア eye ☆

 目を覚ますと、天井が見えた。

 どんよりと、暗い。

 まるで日の光のない雨の日のような、それも夕暮れ時のような薄暗い天井。

「………」

 嫌な感じ……だな。

 もしも『なぜ?』と訊かれて、答えられるほどの理由は思い浮かばない。しばらく見上げていて、ただそう思った。

 少なくとも、オレの部屋の天井ではない。それだけはハッキリとわかった。

 (ならここはどこだ、なぜオレはこんなところで寝ている?)

 自分の疑問に、答えが浮かばなかった。まるで頭の中が乳白色に染められたように、ぼんやりとしている。

 オレの身に、何かあったのだろうか?

 腕を持ち上げて、手が見えるようにかざしてみた。

 そこに見えたのは、普通の手。長年付き合ってきた、多少ゴツゴツとした感じのあるオレの手だ。

 別に血に染まっていたりしているわけでもない。

 「これで見慣れないものが見えたら―――」

 「見えたら、一体どんな反応を見せてくれたのかしら?」

 当たり前のものを見れたことにどこか ホッ とした―――その直後、声が聞こえた。それも割と近くに。

 聞こえてきたのは、女性の声。甲高い感じではない、どちらかといえば落ち着きのある声。

 「……誰だ?」

 誰かが居るとは気付いていなかった。多少驚いたが、それは心の内に押し込み平然を装って問いかける。

 「私の声、覚えないかしら?」

 聞こえてきた声には、たしかに覚えがあるような気がする。

 だが今のオレは寝起きのせいか、ひどく頭が重い。

 後頭部に鈍い痛みすら感じるような、そんな嫌な重さだ。

 だから素直にそう答えることにした。

 「悪いが、頭痛が邪魔して思い出せそうにない」

 単に『思い出すのが面倒』と、言えなくもない。

 (それでも嘘は言っていない)

 自己弁護しながら、同時に片手を後頭部に当てて頭を抱えあげるようにして上半身を起こす。

 声のする方へ目を向けると、薄暗い暗闇の中に女性らしい人影があった。

 「あら、残念。でも頭が痛いのは無理もないわね。彼、手加減できなかったみたいだから」

 「彼?」

 彼? 手加減?

 (オレは誰かにやられたのか?)

 彼女の言葉が、オレの頭の中で疑問符をつけて並ぶ。

 「ライト、つけるわよ」

 「ッ!」

 なんとか眠る前のことを思い出そうと、まだ重い頭をひねっているといきなり部屋の中が明るくなった。

 突然のことに思わず手をかざして顔をかばう。

 

 ―――天井が抜けたかとおもった………

 

 「おはよう、王子様。お目覚めの気分はいかが?」

 再び、先の声が聞こえた。まだ明るさに慣れない目を瞬きながら、彼女を確認しようと目を凝らす。

 いったいどうやったのかはわからなかったが、突然明るくなった部屋の片隅に『彼女』が居た。

 「……なるほど、あなたか―――ハルカさん」

 「覚えていてくださってありがとうございます、王子様」

 頭に浮かんだ名前を口にすると、彼女はヒザを折って頭を下げた。その動作に、鮮やかな金髪が頬を流れ落ちる。

 「からかうのはよしてくれないか?」

 (これで彼女がドレス姿なら、その気になれたかもしれないな)

 そう考える自分に、思わず苦笑してしまう。

 彼女は旅装束らしい、飾り気の少ない衣類を着ていた。

 彼女の顔立ちの良さやその鮮やかな髪を考えると多少さびしい気もしたが、それでも深紅に染められたそれは割と似合っている。

 「あら、からかっているつもりはないワ」

 『心外ね』といった顔をしてみせるものの、どう見てもその黒い瞳は笑っているように見えた。

 その証拠というわけではないが、声も弾んでいるように思える。

 「昔から捕らわれの女の子はお姫様、それを助け出すのは王子様の役目と決まっているものよ」

 「それなら、なおさら―――」

 ―――オレの役目ではない。

 

 そう言い掛けて、やめることにした。何を言っても無駄な感じだ。

 いったいどこでどうやって調べているのか知らないが、きっとオレがリムを助けるためにここまで来ている事もすでに知っているんだろう。

 (わざわざこんなところまで来るなんて、いったい何が楽しくてオレの事なんか調べているのだろうな、この女性は)

 「……ン?」

 ふと、心にひっかかるモノを感じて、あたりを見回してみる。

 いま居るこの部屋―――周りは見た事もないような金属の壁に囲まれていた。

 いったいどうなっているのか、天井そのものが光り輝いて室内を明るく照らしている。窓枠も無い、息苦しいほどの閉鎖感すら感じる部屋だ。

(まるでモノトーンの世界に紛れ込んだような、そんな錯覚を覚えるな)

 まるで単一色で固めたような部屋のなかでは、唯一の救いのように輝く金色の髪へ自然と目がを戻る。

 「何であなたがここにいるんだ?」

 「どういう意味?」

 突然の問いかけに小首を傾げる彼女に、改めて訊いた。

 「ここは、今まで村の者にとっては『不可侵の領域(入りたくても、入れない所)』と言われてきた、前時代の遺跡の中―――

  ではなかったか?」

 「あなただって居るじゃない、『不可侵の領域(入りたくても、入れない所)』なんて言われてた扉のこちら側に」

  オレの言葉に、彼女は笑って答えて見せた。つまり肯定したわけだが……

 「オレは、連れ(ラウル)のおかげだ。自分自身の能力では、どうすることも出来なかったかもしれない。

  だが、あなたは自由に出入りできるんじゃないのか?」

 「どうしてそう思うのかしら?」

 「あなたはすでにココにいる。……あとは『なんとなく』かな」

 「なんとなく?」

 言ってみてから、この表現が妙に合っていると感じていた。思わず問い返してくる彼女に、笑みを返す。

 「なんとなく、あなたはどこにでも現れそうだから。そうだな……気がつけば、いつのまにか背後で聞き耳立ていそうだからね」

 「……なんとなく、サラッとひどい事を言われたような気がするのだけど。

  ―――このなんとなくは、気のせいかしら?」

 「さあ?ボクにはわからないな……」

 少し気取って格好(ポーズ)をとって見せると、彼女はちょっと驚いたような表情になった。

 そして一つため息をつくと、その表情も苦笑に変わる。

 「あなたって、実は結構気取り屋なの? 私はもう少し『質実剛健(しつじつごうけん)』って感じなのかと思っていたのに」

 「さあ、どうだろうな?」

 苦笑する彼女を前に、オレは上機嫌で笑って見せた。

 前に会ったときは、終始上手を取られて子ども扱いされてしまったからな。

 そのお返しが出来たようで、彼女の苦笑を見ていると気分が良い。

 (こんな本音は、とても言えないけれどナ)

  ピーッピーッピーッ

 優越感に浸ったていると、どこからともなく耳障りな音が鳴り響きだした。まるで頭に直接に『響く』ような音だ。

 おもわずオレは顔をしかめたが、彼女は何かを確認するように天井(うえ)を見上げた。

 「……どうかしたのか?」

 「死にたくないなら、ついてきて」

 ハルカはそう言うと返事も待たずに踵を返した。そして壁を触れると音も無く扉が開いた。

 (物騒な話しだな、いきなり「死にたくないなら」なんて)

 迷わずに出て行く彼女に、オレもベッドを降りた。

 言われるままについていくことに戸惑いもあったが、こんなところに一人残ってもどれだけのことが出来るか怪しい。

 アイツ(ラウル)ならともかく、ここではオレには何も知らない赤子同然だ。

 (彼女ならリムのことも何か知っているかもしれない。今は目的達成に専念しよう)

 自分自身を説得しながら部屋を出ると、彼女の姿は少し離れた通路の行き止まりにあった。

 オレも大して間をおかずに後を追ったはずなのに、一体どうやってそこまで移動したのか……不思議なほどの速さだ。

 「いったい、なにが起こったんだ?」

 「中に入ったわ」

 「は?」

 駆け寄って問い掛けたオレに即答が返ってきた。だが、その意味が見えずに少し戸惑ってしまう。

 「誰かが、この遺跡にの中に、入ったわ」

 わかりやすいようにわざわざ区切って言い直しながら、彼女は壁にふれた。

 行き止まりに見えた壁が横にすべり、その向こうに小部屋が現れる。

 「入って」

 自ら先立って中に入った彼女に続いて、オレも中に入る。すると、背後で音も立てずに扉が閉じた。

 「下に降りるわ」

 彼女の言う意味を理解するより早く、身体が浮かび上がるような奇妙な感覚に襲われた。

 まるで床が消えたような。落とし穴に引っかかった瞬間(とき)のようなあの浮遊感―――

 「な、なにをしたんだ?」

 「大丈夫よ。これは昇降機(エレベーター)。この部屋そのものが下に降りているだけ、別に死んだり怪我したりなんてないわ」

 下に、降りている?

 この部屋自体がゴンドラか何かになっているのか?

 「今あなたのお友達(つれ)さんは、私の友人とずっと下の方にいるのよ。まず、あなたをそこまで案内する」

 無表情な彼女の顔を見ていると、ふと人形のような印象がよぎる。

 さっきまで談笑していたのが、嘘のようにその顔から表情が消えている。

 まるで別人のようだ。

 「あなたは友達と合流したら、このエレベーターを利用してすぐにここを脱出して」

 「ち、ちょっと待ってくれっ」

 脱出?ここが危険だという事か?

 なら、このどこかにいるはずのリムはどうなるんだッ?

 「オレは、まだここまで来た目的を果たしていないッ」

 「あなたが探している娘なら、今から行くところのすぐそばにいるわ」

 想像はしていたが、彼女の言葉に改めて実感した。本当にオレのことを、何でも調べているだと。

 「案内してくれるのか?」

 「そばまでは」

 そっけない。

 彼女の返事は、その表情とともに変わった。端的で最小限の単語だけを返すようになっていた。

 それでもその答えは、オレにとっては更なる期待をさせてくれるものだ。

 「頼む。ついでにというのはなんだが、彼女を開放してやってくれ。

 『時の贄』のことなら、俺が代わる。だから彼女を外に出してやってくれ」

 

 ―――『時の贄(にえ)』

 それが数年から十数年に一度、オレ達の村に繰り返される儀式だ。

 村が造られた当時から、長く繰り返されてきた。儀式の『贄』を選ぶ時の決まりごとは、単に『若い者』とだけ伝えられている。

 今回はオレがその役を果たすつもりだった。

 村を治める長の子として、村のみんなにこんな別離をさせたくなかったからだ。

 特に、彼女にはそんなことはさせたくなかった。

 (なのに―――!)

 

 「出来るのは案内だけ。私はこの遺跡の『主(あるじ)』ではないから」

 目の前にいる女性から返ってきた言葉は、その表情と同じように冷めたものだった。

 「じゃあ、その主のところへ案内してくれないか? オレが、直に話をつける」

 オレは金幕の向こうの瞳を見つめ返す。

 …一呼吸

 ……二呼吸

 彼女が『降りている』と言うこの狭い部屋の中で、身を軽い浮遊感に包まれながら向かいあうオレ達。

 そのままどちらが動くこともなく、数瞬の時が流れて―――

 グ…ヴゥゥゥ……

 「……ヴッ」

 それまで感じていた浮遊感が突然消えて、今度はいきなり体が重くなったような感覚に襲われた。

 流れ落ちる滝の水の中に飛び込んだような感覚―――実際にはそこまで激しいものではなかったが、似ているようにも感じる。

 思わずヒザを曲げ、ふりかかる『重さ』に身構える。そんなオレとは対照的に、彼女は表情すら変えていない。

 「もうすぐ、目的の階につくわ」

 淡々とした口調で、何かの報告のように声を出す。

 その鮮やかな金髪の影に見え隠れする黒い瞳は、オレをしっかりと捕らえていた。

 その瞳に思わず身動きすることをためらってしまう。

 そんなオレを前にして―――

 「そこに私の友人であり、そしてこの遺跡の『主』がいる。私は『主』である彼女と会うわよ」

 ―――彼女はその口元に薄っすらと笑みを浮かべていた。まるで迷い子に手を差し伸べるように。

 

 『自分でどうにかするというのなら、会わせてあげる』

 

 そんなところだろうか?

 ………よし。いざとなったら、実力を行使してでも説得してやるッ

 ..........to be continued...........
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