THE REAL WORLD  Second Season 「麦藁帽子の下で……」
[ 第十二章 ☆ 二つの声 ]

 あたし、守れなかった……よ…

(そうだね、守れなかった。……辛いよね)

 ………忘れたい……忘れてしまえば……

(楽になれる?ううん、無駄だよ……無意味。だってあたしがいるもの)

 

 ………

(あなたはもう気付いている。後悔していることに………)

 

 …後悔……

(あなたは認めなくちゃいけない。後悔していることを)

 …あたし……後悔………

(急いで戻ろうよ)

 

 ………

(きっと、まだ間に合うよ!)

 …あたしは……

☆ ラウル eye ☆

 気がつけば、暗闇の中にいた。

 右を見ても、左を見ても、真っ暗で何も見えない。

 まるで夜闇の中のように暗い。

 そこに在るはずなのに、自分の腕すら見えないなんて。

(ここは………どこだ?)

 俺、遺跡の地下深くの一室にいたはずだろ?

 知らないうちに、灯りが消されてしまったんだろうか?

 それならこの暗さも納得ができるけどな。

 俺は立ち上がってみた―――それだけでフワフワと浮いているような錯覚を覚える。

 まるでドロドロとした沼の上に立っているような、そんな気分だ。思わず足踏みして、床を確かめてしまう。

(ホッ ちゃんとした固い床だ)

 今度は何かつかめる物を探そうと、暗闇の中で両手を左右に振ってみる。

 だが手の届く範囲に何もないのか、何度やっても空を切るばかりだ。

(ここが部屋の中なら、少し歩けば壁に手が届くはず……)

 少し汗ばむ左手を前に突き出して―――半歩、さらに半歩と少しずつ前に進む。

 そうして十数歩ほど歩いてみたが、まだ壁には手が届かない。

(おかしい。この部屋はこんなに広かったか?)

 足を止めて後ろを振り返ってみる。そこにはさっきまで俺自身が座っていた椅子があるはずだが、ただ闇が広がるばかりで何も見えない。

 しかたなく前を向く―――が、何も見えないのは変わらない。

 いやその前に、もう正確な『前』がわからなくなっていた。

 前を向いても、後ろを見ても、左も右も同じ。

 どこを見ても何も見えない闇の中。

 床があってそこに『立っている』という事実だけが、自分が今ここにいる事を確認させてくれる。

(けど、逆を言うならそれ以外は何もわからない。―――ここは本当に部屋の中なのか?)

 脳裏に、不安がよぎった。

 もしここが、部屋の中ではないとしたら?

 知らない間に外に出されていたとしたら?

(何も見えない現状で歩くなんて、ひょっとしたら命取りになるんじゃないか?)

 

 ―――そんなことがあるはずがない。

 

 そう思っても、感じてしまった不安を消すのは簡単なことではない。

《後悔してる?》

 不安に身体を硬直させた俺の脳に、誰かの声が聞こえた。

 幼い少女のような声―――

(どこだ?)

 前を見ても後ろを見ても、何も見えない闇に変わりはない。

 戸惑う俺の耳に再び声が―――響くように声が聞こえてくる。

《あなたは認めなきゃいけない》

 認める?

 何を?

 この声の主はどこにいるんだ?

「君は誰だ、姿を見せてくれないか?」

 反響しているように響いてくるせいで、方向すらつかめない。

 

 ―――せめて、辺りを照らせるだけの明かりがあれば助かるのに……ッ!

 

 『それ』は、そう思ったのとほぼ同時に起きた。

 何も見えない暗闇の中に一つ、何の前触れもなく明かりが浮かび上がっていた。

 残念ながらそれは辺りを照らしてくれるような、大きな明かりではないかった。

 それでもその小さな光は白くしっかりと輝いていて、どこか暖かい感じがする。

「君、なのか?」

《………》

 思い切って問いかけてみたが、返事はなかった。

 俺は文字通り唯一の光に近づこうと、足を前に出した。

 足元すら見えない―――身体を硬直させた不安は、不思議と消えてしまっていた。

 

 二歩、三歩。

 …五歩、六歩。

 ……九歩、十歩。

 

 手を伸ばせば届きそうなところまでは近づいた。だけどそれ以上はいくら足を進めても、それより近くに寄る事が出来ない。

(俺が進むのと同じ距離を、光も離れていっているのか?)

 近寄ることが出来ないことに戸惑う俺の脳に、再びあの声が聞こえてきた。

《急いで戻ろうよ》

「戻る?」

《きっと、まだ間に合うよ!》

「間に合う?」

 思わず後ろを振り向いた。しかしそこに見えるのはさっきと変わらない真っ暗な闇だ。

 わざわざ光から離れて闇に戻るなんて、とてもする気にはなれない。

「戻るって言うのは、どこに行くって意味―――」

 再び光へと顔を向けたとき、突然その輝きがスッと暗くなった。

 

 ―――消えてしまう?!

 

 そう思った瞬間、思わず床を蹴って手を伸ばしていた。

 わずか二、三歩。

 届きそうで届かなかった、宙に輝く光に手を伸ばす。跳びつけば、ほんの一呼吸する間もない距離。

 そのわずかな間にも、急速に光から輝きが消えていく。

 輝きを失っていく光、その光の中心に俺の指先が吸い込まれた瞬間(とき)―――

(ゥワ………ァァァ!)

 突然、光が爆発したかのように弾けた!

 自分の目をかばう『間』すらない。

 俺の指先で起きた光の爆発は、激しい衝撃(ショック)とともに一瞬で闇を真っ白に埋め尽くしていた。

(……ぅぁ…)

 周囲を覆う闇を吹き飛ばすような、光の衝撃。

 音も、突風も、振動もない。ただひたすらに激しい光はまぶたも突き抜けてくる。

 俺は光の奔流に意識を、確実に焼ききられていくのを感じた。

 そんな途切れて薄れていく意識の中で、俺の脳は二つの声を聞いていた。

 

《……許して、くれるかな?》

《怒られるかもしれないね》

 

 手も足も動かない、身体は何も感じられない。

 俺は最後の思いで目を開いた。すべてを消すような輝きの中に、二つの人影が見えた。

 一人は髪の長い女性、もう一人は幼い幼女……

《……怒られるのは―――》

 最後まで聞き取る前に、俺の意識は消えた。

 

「………」 

 気がついたら床に転がって、天井を見上げていた。

 体を起こしてあたりを見てみると、テーブルと倒れた椅子がそばに転がっている。

 テーブルの上には冷めたお茶の入ったカップが二つ置かれたままだ。

「……俺、寝ていたのか?」

 日の光の届かないこの地下で『灯り』の役目も果たす光る天井を見上げていたせいか、なぜかとてもまぶしい夢を見ていたような気がする。

「それにしてもなんで床で寝てたんだ、俺?」

 小ぢんまりとした部屋にベッドはなかった。だからといって床でなくても、俺ならイスで十分熟睡できるはずなんだけどな?

 ……ひょっとして、イスごと蹴倒されたかな?

 ひとまず立ち上がって、倒れているイスをきちんと起こした。念のために後頭部をさすってみても、特にコブはなかった。

「……まだあの娘(ロビン)は帰ってきてないのか」

 つぶやきながら起こしたイスに座った。

 人気のまったくないこの小部屋で、いつ帰ってくるのかわからない彼女を待つ。

 ………

 ハッキリいって、ヒマだった。

 ヒマでヒマであくびの一つも出そうな感じだが………

「よく寝てたのか、あくびも出ないな」

 意味もなく苦笑しながら、出入り口の扉を見てみた。閉じた扉は、まだ誰かに開けられそうにはまるで見えない。

「だけど彼女が帰ってきたら、きっとヒマなんて欠片もなくなるだろうな」

 俺の事情を聞いてもらって、何がなんでも協力してもらえるように説得しなくちゃいけない。

 俺と親父、親子二代でひとつの夢をかなえようと、世界中の遺跡を巡ってきた。

 この遺跡にも、以前まだ俺が幼かった時に親父と来たことがあった。

 だけど、親父はなぜかこの遺跡に手を出さなかった。

 その遺跡の中に、今こうして俺がいる。

「俺が入ることが出来たんだ、あの時の親父に入れないはずがなかったのにな………」

 この遺跡にはあの時に親父が見立てていたように、俺たち親子の夢をかなえられる可能性が詰まっていた。

 あとは、俺がその可能性を持ち帰れるかどうか、そこにかかってる。

「そのためには、とにかく説得しなきゃな……」

 その時のことを考えると、思わず苦笑が浮かぶ。

 お茶の好みを訊かれた時に、俺があいまいな返事をしたら声を荒げて怒ってたからな。

 あの時の様子から考えると、ちょっとでもゴネらせたらあとが大変そうだ。

 

 ………

 ………

 ………

「だけど、遅いな………」

 何もない部屋で待っていると、時間が遅く流れるのか?

 気分的には大分待ったつもりだが、それでも彼女(ロビン)が戻る様子はなかった。

 いいかげん待ちくたびれてきた俺は、少し前から一つのあるものが気になってきていた。

 すぐにでも行動したい気持ちを『もう戻ってくるだろう、戻ってきたときに機嫌悪くしたら説得しにくい』と

 自分をずっと説得してガマンしていたんだが……

「……こんなところに閉じ込めて、帰ってこない方が悪いんだ。開けてみようッ」

 俺は適当な理由をつけることにした。

 立ち上がって、出入り口とは反対の方の壁に向かいあった。そこには出入り口とまったく同じような平凡な扉が一つある。

 実はこの部屋に入った時から気になっていたんだ。

 出入り口と反対側に扉がある、ならここは単に通り抜けるだけの部屋かもしれない。だとしたら、この向こうには何があるのか?

「突撃ッ 謎の扉の向こう側を調査しろ!

 ……なんてな。こんなに待たせる方が悪いんだ、少しぐらいいいだろ」

 俺が扉に触れると、予想通りすんなりと開いた。

 あの少女とお茶を飲んでるる時にもわかったけど、どうやら『閉じ込める』とか、こっちを警戒するような気はまるでないらしいな。

「ま、気兼ねなく覗かせてもらおう」

「カプセル以外にも、いろいろあるみたいだな……これなんか車輪みたいのがついてるけど、どうやって使うんだ?」

 俺でも知らないような『遺物』を前に、好奇心の赴くままにこの区画の中を歩いてまわった。

 扉の向こうには研究機材のための倉庫のような感じで、色々な機材があった。

 それ以外にも色々な『機械』があり、そのほとんどが『遺跡の探検者』を自称する俺ですら初めて見るような物ばかりだった。

「すごいな……」

 あの少女は本当にこれらを使いこなせるんだろうか?

 これだけのモノを使いこなせるなら、俺の頼むことなんて簡単なんだろうな。

「親父の夢、俺の望み……か――」

 倉庫の中を半周ほどして、一角を埋めるように並ぶカプセルの前で立ち止まった。そのカプセルは今まで見てきたそれと少し違うようだ。

「やや大きいサイズか?……中に人影がないのは、ここでは珍しいかもな」

 他のカプセルも見てみると中には人影のあるものも有ったが、どちらかというと空っぽのカプセルの方が多いようだ。

 あれだけ人が入ってる方を見た後だと、なにも入っていないのが不思議に見えて―――

《ら、ら、ラウル〜〜〜》

 人の考え事を押しのけるような、そんな大きな声が直接頭に響くように聞こえてきた。

 こ、この声は……

「パムか?どこにいるんだ、姿を見せろよ」

《いま行く〜、えいッ》

 …えいッ?

 

  ひゅぅぅぅぅ ボコッ

 

「いだっ!」

 な、なんだ、いきなり頭に何か落ちてきたぞっ

《ピンポイント着地、セーコー♪》

「パム……お前な」

《なに?》

「もうちょっとまともな現れ方はできないのか?」

《だってなんだか久々な登場なんだもん。ちょっとくらい派手でもいいじゃない》

 登場って……

 そりゃ確かに久々って感じはあるけど。

「……ところで今までどこにいたんだ?」

《どこって…アタシはラウルに言われて、タクアって人を見てたんだよ。ひょっとして、忘れてた?》

「………いや、忘れてはいないぞ」

《いまの 間 は、なに?まさか本当に忘れて……》

「と・こ・ろで、そのタクアはどこにいるんだ?」

 半眼で疑うような表情を見せるパム。その視線から目をそらして、ついでに辺りを見てみるものの彼の姿は見当たらない。

《あの人ならね、少し前に目を覚ましたよ。それでおっきなお姉さんと、なんだか楽しそうに話しをしてた》

「おっきな……金髪の?」

《そう、金髪のお姉さん。なんだか知り合いみたいだったから『大丈夫かなっ』て思って、おいてきちゃった》

 タクアが、あの金髪の女性と知り合い?

 まさか彼は、すでにこの遺跡の人間と交流があったのか?

「……それで、パムはどうしてここにいるんだ?俺を探しに来たのか?」

《う〜ンとね、最初はそうだったんだけど、正確に言うと違うんだよ。ラウルを探している時に、呼ばれたの》

「よばれた?」

《うん。良くわからないんだけど……女の子に呼ばれたような気がして、それでその子を探しに来たの》

「女の子?」

《うん。小さな、幼い女の子の声》

「………どんなことを言って呼んでたか、わかるか?」

《なんだかよくわからないけど『怒られるかもしれない』とか言ってたような気がする》

「怒られる………」

 小首をかしげて言うパムの言葉に、不思議と脳裏に引っかかるものを感じていた。

 だけどそれがなぜなのか、俺自身にはサッパリわからない。

「………それで、その子は見つかったのか?」

《うん、見つけたんだけど……》

「だけど?」

《…えとね、こっち》

 口で言うよりも見せた方が早いと思ったのか、パムは俺の頭から降りて倉庫の中を案内しだした。

 小さな翼を羽ばたかせて進む彼女のあとを、俺が小走りに追いかけていく。

《この人だよ》

 パムが指差したのは、数十ほどあるカプセルの一つだった。

 周りのカプセルは中が空のものが多いなかで、その中には一つの人影が浮かんでいた。

「この人……この女性がか?」

 浮かんでいたのは、俺と同じ歳くらいの女性の姿だ。

 カプセルを満たす青い溶液の中、まるで何かを祈るように胸の前で両手の指を折り重ねて眠っている。

「……幼い女のコじゃあ、なかったのか?」

《聞こえた声は、そう思ったんだけど……》

 パムは戸惑うような表情を見せながらも、カプセルの中で浮かぶ女性を見上げて《やっぱりこのお姉さんだよ》と

 何か確信するように言った。

 そんなパムの言葉に押されるように、あらためて女性を見上げてみる。

 その女性はそれまで見た他のカプセルの中にいる人々と違って、薄絹のようなものを一枚着て浮いていた。

 他のものに比べると溶液が濃いのか、青い溶液のために肌の色は良くわからない。

 だが長い髪がゆったりと広がっていて、祈るような姿とあわせてどこか幻想的に思える。

「……綺麗な人だな」

《そうだね―――あれ?》

「どうした?」

《なんとなく見覚えがあるような気がしたんだけど……この女の人》

「知り合いか?」

《ううん、そういうわけじゃないけど。なんとなく知っているような気がして…》

「……なあ、どうしてこの人だと思ったんだ?」

《それはね、ここには同じようにこれ(カプセル)の中で眠っている人がたくさんいるけど、この人だけが夢を見ているの》

「夢を見ているということは」

《夢を見ることを出来る人は、なにかを知っている人だよ》

 夢を見るのは、何かを知っている証拠……

 ここに居るのだから、何か知っていることはないか訊いててみたいけど。

「勝手にカプセルから出したりしたら、あの子が怒るだろうな」

《あの子って?》

「そか、パムはロビンって子にまだ会ってないんだな。

 ここに住んでるらしい、ロビンって子だよ。俺より数段、遺産のことに詳しいみたいだ」

《ラウルより詳しいの?》

「きっとな。こんなに小さい子なのにな」

 言って俺は腰の辺りで手を振って見せた。

《ふーん。でも『勝手に出したりしたら』って、ラウルに開ける事できるの、これ(カプセル)》

「やってみないとわからないけど、きっと出来るさ。同じようなものを使ったことが―――」

「ラウルッ お前こんなところに居たのか!」

 背後から突然大きな声をかけられた。慌てて振り向くと、そこには駆け寄って来るタクアと金髪の女性の姿があった。

「タクア、無事でなにより……どわぁた!」

《キャー!》

 

  ブンッ!

 

「ち、よけたか…」

 あ、危なかった……タクアのやつ、そのまま駆け寄って来る勢いでいきなり殴りかかってきた!

「いきなりなにをするんだッ」

「さっき気絶させられた、そのお礼をしておこうと思ったまでだ。気にするな」

《き、気にするなって方が無理よッ 大体アタシに当たったらどうするつもりよ!》

(彼(タクア)にはお前の事が見えなていなんだから、言うだけ無駄だと思うぞ・……パム)

《グッ……じ、じゃあ、ラウルが文句を言ってよ!》

 そうは言っても、気絶させたのは事実だしなぁ。

 そんな俺とパムの胸の内なんてまったく知らないタクは、俺の背後を見上げてうれしいような、それでも苦虫を噛み潰したような、

 なんとも言えない表情(かお)を見せていた。

「………相変わらず、目ざといというか、鼻がいいというか」

「?」

「ところでラウル、お前はロビンというやつと一緒じゃなかったのか?

 リムを助け出すには、そいつを説得しなくてはいけないんだが」

「ああ、あの子なら少し前に誰かが遺跡(ココ)に入ってきたって、見に行ったよ」

「それで、どこへ行ったかわかるか?」

「たぶん上だとは思うけど、詳しいことはサッパリわからない。

 その辺は俺なんかより、後ろの姉さんの方がよく知っているんじゃないのか?」

 俺が話しを振ると、彼女は少し目を細めた。

 タクアが背後を振り向くと、その彼の視線をよけるようにして彼女が前に出てきた。

 彼女はそのまま俺の前も素通りしてカプセルの前に来ると、迷いもせずにカプセル下部にある操作板(パネル)に手を伸ばす。

(パム、タクアが知り合い見たいだってのは彼女か?)

《そうだよ。なんか知ってる顔って感じで》

(そうか)

 パムと確認している間にも彼女は操作盤を手際よく扱っていた。その操作を横から見ていると、彼女が手を止めて顔を上げた」

「私はココの住人ではないから、詳しいことはわからない。

 だけど、あなた達は早くココから外に出た方がいいと思う。ここはきっと危険になると思う」

 突然、そんなことを言った。

 そして彼女は俺に向かって『特にあなたは、会わない方がいい』とまで付け加えた。

「危険?それも俺が特にってのはどういう……」

「………」

 問い返す俺の声がまるで聞こえないかのように、彼女は俺にカプセル下部にある操作板(パネル)を指して見せた。

「ここにあなたの使う鍵(キー)を打ち込んで。そうすればこの娘をココから出すことができる」

 そのカプセルの中にいるのは、言うまでもなくパムが唯一この場で『夢を見ている』といった女性だ。

「……ラウルなら、わざわざロビンってやつを説得しなくてもリムを助け出すことが出来るのか?」

 

 ―――え?

 

「ロビンを説得するのはもう無理。でも彼の鍵(キー)なら無条件で開放できる」

「そうか、ならむしろ都合が良い。ラウル、すぐにリムをそこから開放してくれっ」

 どこか無表情な感じのする彼女(ハルカ)の言葉に、タクアは俺を見て興奮気味に叫んでいた。

 でも当の俺は、多少困惑して『彼女』(カプセルの中)を見上げている。

 

 ―――リム……って、この娘が『あの娘(リムア)』か?

 

(男の子の中に混じって、木の枝の剣を振り回していた女の子)

(とんでもない罠を作ったり、洞窟の中を探検したりしていた女の子)

(珍しい翠の髪を短く切った、少年のようだった女の子……)

 俺は慌てて時の流れに埋もれて、かすんでしまった記憶を引きずり出していた。

 彼女と会えたたったの数日の思い出はどれも活発で、男の子勝りの天真爛漫なお転婆娘の姿ばかりだ。

「………」

「どうしたんだ、ラウル?早くリムを出してやってくれっ」

「…なぁ」

「なんだ?早くしろっ」

 俺が反応しないせいか、タクアが苛立った声を上げている。

 それはわかっていたが、俺にはそれでもまず先に確認せずにはいられないことが出来ていた。

「なぁ、本当に、この娘が『あの少女(リムア)』なのか?」

 

 記憶の中に残る、思い出の幼い女の子と…

 ―――カプセルの中で眠る、長い髪の少女。

 

 目の前にいるのはまるで神に祈りをささげる巫女のような、そんな清楚さすら感じる少女だ。

 長く伸びた髪が漂うように優しく広がっていて、薄い衣を着たその姿はどこかはかなく見える。

 想い出の中のあの少女と、この女性とでは違いすぎて……

《ラウルは違うと思うの?》

(違うとは言わないが……でもあまりに違いすぎて納得できないというか)

 俺がパムに戸惑う理由を上手く説明できないでいると、背後で呆れた声がきこえた。

「お前、気付いていわたけじゃなかったのか?

 まぁ幼いころしか知らないお前にとっては、無理もないかもしれないがな」

 カプセルの少女の姿に見とれて、呆けたようにしている俺の姿にあきれたんだろう。

 タクアがため息混じりにそんなことを言った。

「村の様子も、アリアさんも、あの時からほとんど変っていないように見えたから……」

「言ったはずだぞ、村は変ったと。オレやラウル、お前自身の姿を見ればわかるだろう?

 それだけ成長している、つまりそれだけの時間が過ぎたのだ。まぁ確かに、アリアさんは不思議なほど変わってないけどな………

 だけどこのオレが保証する。この女性が成長したリム、つまりリムア・ポゥ・ミルフィスだ」

 ..........to be continued...........
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THE REAL WORLD   Second Season
「麦藁帽子の下で……」 第十ニ章 ☆ 二つの声

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