THE REAL WORLD Second Season「麦藁帽子の下で……」
[ 第二章 ☆ “出会い?”]

 ☆ タクア eye ☆

「………お前、リム…リムアの事、どう思う?」

「どうって………カワイイとは思う」

 

 ―――そう……お前はそう言っていたよな………

 

「けど、お転婆で、とんでもない馬鹿力ですぐ殴るし………」

「オレは、それはそれでやっぱりカワイイと思う!」

「……………」

 

 ―――あの時、お前はあきれた顔をしていた………断言できるオレのことが、不思議だったんだろうな。

 

「ストップ!言いたい事は大体見当がついたから。だけどさ、それは取り越し苦労って奴だよ。

 どうせボクは長くせずに、また父さんと旅に出るんだから関係ないよ」

「早ければ明日か明後日にはこの村を出て行くと思う。長くいることになってもせいぜい十日くらいじゃないかな?」

 

 ―――確かに……お前はウソを言っていなかった。それから三日だったか……四日だったか?お前は村を旅立って行ったな。

 ―――だけど………

 

「もし、ボクが彼女の事を好きになるような事があっても、すぐにお別れだよ」

 

 ―――ウソだったとは言わない………

 ―――だけど……

 

「……く……た……クッてば!」

 

  ゆさゆさ……ユサユサ……

 

 ―――……誰かが、オレを揺さぶってる……

 

「こらあ!たくぅ……ぉきぃろぉぉぉぉ………」

 

 ―――何か言ってるみたいだ………

 ―――放っておいてくれよ、オレは昨日徹夜でキラばばぁの宿題やって、ねみぃんだから………

 

「もう授業、始まってんだから、意地でも起きないつもぉりぃい?

 ぃいわょう、こうなぁったぁら、これで実力行使しでも起こしてやるんだから!!」

 

 ―――授業?………実力行使?

 ―――いったい何を………

 

  ぱぁん!!

 

 ―――うわっ!

 

「やっと起きた?

 もう……大事な話があるって言うから来てみればグースカ寝てるなんて、女の子呼び出しておいてすることじゃないよ?」

「……リム……いま、授業がどうとか言っていなかったか?

「なに寝ボケてんのよ、タク?」

 そう言ってリムの指差す先を見てみる。確かに窓の外は真っ暗で………夜空には星も出ていた。

 それにここは村の外、森の木々が途切れる水浴び場の近く………

「で、呼び出したりして、なんなの?いまあたしが忙しいことは、タクは良く知っていると思ったけど」

「オレが?オレがリムを呼び出したのか?」

「いつまでも寝ボケないでよ、あたしに残ってる時間、少ないんだから」

 ……そう、そうだった。だからオレはリムを呼び出したんだ。

「なぁリム。何でアレに、志願なんてしたんだ?」

「……言いたくないって言ったら、聞かないでくれる?」

 ある程度、推測はついてる。

 でも、だからこそ!

「オレは止めたい、止めなきゃと思ってる」

「………でも、誰かが入らなきゃ」

「それは、オレが替わる」

 あの時、ここで話した時にそう決めたんだ。

 そう、そうだった。オレは決めたんだ。

 あいつが戻るまで、オレが彼女を守るんだと………

 だけど……

 …だけど……

 ……だけど…

 

  □

 

  ユサユサ… ユサユサユサ……

 

「おい、ニイちゃん、大丈夫か?」

 また、誰かが、このオレの身体を揺さぶっている………

 いや、あれとは違うか………

「悪いが、寝るなら宿に行ってくれ。安い宿を紹介してやるから」

 村を出てきたんだ、ここに彼女がいるはずがない。

 オレは、オレに出来る事をするために、一人で村を出てきたのだった……な…

「起きてるか?」

「………ああ。少し、眠ってしまったようだな…」

「あんた、旅のモンだろう?今日は程々にしてもう休みな。安くてそこそこ良い宿を紹介してやるから」

「すまない。だが、もう宿は取ってある、心配しないでくれ。酔い覚ましに何か軽いものを一つくれないか?」

「ああ、いいとも。何がい―――」

 

  ドンッ

 

 オレを起こしてくれた酒屋の主人が注文を聞く前に、オレンジ色をした液体がなみなみと注がれた小ぶりなカップが、

 目の前のカウンターに置かれた。

 

 ―――いや、小ぶりと言うよりは……子供用だな。

 

「飲めよ、おれのおごりだ」

 声に振り返ってみれば、そこには顔を赤くした大柄な男が立っていた。

 おそらくは熊人の血筋なのだろう、全身の筋肉が盛り上がって見える。

「飲みな、ニイちゃんよ。この辺り一帯では、ここは一番キツイ酒が飲める店だ。この店に軽い飲みもんなんてねぇぜ。

 あるとすればその子供用のジュースくらいのもんだ」

「コラァッ!お前何をかってなことを―――」

 声を荒げて止めようとしてくれた主人を、オレは手で制した。そして空いている方の手でジュースを飲む………

「結構美味いじゃないか。主人、これは一杯いくらだ?」

「さ、三十だが………」

「安いもんだな、もう一杯頼むよ」

「ケッ………」

 オレか何気なく飲み干してしまったのを見て、熊人はオレに背を向けてしまった。席に戻るつもりなのだろうが―――

「根性な―――」

「待てよ、デカブツ」

「ん?」

「主人、そうだなぁ……このテーブルはいくらだ?」

「はぁ?」

 オレの問いかけに、子供用のカップを手に厨房へ引っ込もうとしていた主人が、変な声をあげた。

 まぁ、無理はないかもしれないけどな。

「そっちのテーブル、いくら?」

「そ、そうですね、五千はするでしょうか………」

「ありがとう。

 どうだデカブツ、ジュースのお礼に五千と三十、賭けてオレと勝負してみないか?」

「…なにをつかって勝負するきだ?カードならお断りだぞ、イカサマされちゃかなわん」

「なに、シンプルに行こう。とはいえ、ここで暴れちゃ主人に迷惑だからな。

 簡単に腕相撲なんてどうだ?」

 オレの提案に、デカブツはあからさまに“ニヤリ…”と笑った。その体躯から想像できるように、やはり相当の自信があるのだろう。

 そうでなくては、オレとしても困るが。

「ぼっちゃん、ちゃんとモノは払ってもらうぞ?」

 とか言いながら熊人は、早速手近なテーブルをオレとの間に引き寄せる。そして迷わずに右肘を置いた。

 どっかの金持ちのボンボンが、たんに意地張ってるとか思ったんだろうな。まあ、少しは持ち合わせもあるが。

 オレが右手を差し出して、熊人の手とつなぐ。ぶ厚い手を握りながら、適当な距離を取って肘をテーブルに下ろした。

「誰か、合図してくれ!」

 熊人が声をあげる。ここにきて、周囲がにわかにざわめき始めた。

 それでも居合わせた客達は、思ったよりは落ち着いたようすで周囲に集まって来くる。

 どうやらこの男が、立ち寄った旅人をこうしてカラかうのはよくやっている事なんだろう。

「あの、ジュースのお代わりを持ってきたのですが…」

「あ、ちょうどいい。主人、そのカップをテーブルに置いてください。それを始まりの合図にしますから。

 ―――あ、そっちじゃなくて、こっち。オレの後ろから廻りこんで置いてください」

「は、はぁ………」

「そっちは俺が腕を倒す方だから、危険ですよ」

 

  ザワッ

 

 オレの言葉に周囲が一斉にざわめく。途端に、オレの左側に陣取っていた人たちが“サッ”と散らばった。

 みんなすぐに理解できたらしい、オレが何を言ったのかを。

 ……ただ一人、オレの前で周囲の反応に戸惑っているこの熊男を除いて。

「なんだ?どうかしたのか?」

「さあ?」

「………フンッ、覚悟はいいかッ始めるゼ!」

「主人、3・2・1とカウントダウンしながら、ゼロでカップを置いてください」

「はぁ……それでは、3」

 オレの指示どおり、主人はカップを手に取るとカウントを始めた。熊男の手に、自然と力が入るのがわかる。

 

 ―――腕相撲ってのは、ようは“力”と“力”のぶつかりあいだ。

 

 だが、腕相撲だからといって、腕力が“力”のすべてじゃない……

 腕相撲での力、それは足、腰、背中、胸、そして腕の総合力。

「……2」

 ゆっくりとカップがテーブルに近づいていく………

 

 ―――勝負としての腕相撲は、真剣勝負に近い。

 ―――まれに、力比べになる泥試合があるが………それはよほど実力が拮抗しているか、ただの下手同士だ。

 

 互いに抜き身の剣を身構えたまま向かい合い、合図とともに剣を突き出す。

 どちらの剣が先に相手の胸を切り裂き、その“心”へ突き刺すことが出来るか………そんな争いだ。

「……1」

 次の瞬間に起きること、それに期待して周囲で見守る人々が息を潜める。

 店内の緊張が、一斉に高くなるのがよくわかった。

 オレ自身、にわかに緊張している………

 ほとんどの勝負は、一瞬で決まる。

 そう、一瞬で。

「ゼロッ!」

 

     □

 

「まったく、あのデカブツが……もう少し持ち合わせていて欲しいものだッ」

 熊男との勝負、もう少しマシな闘いになるかと思ったんだが……

 あの熊男、力勝負の泥試合に持ち込んでオレの事を遊ぶつもりだったんだろう。

 だが、その油断でオレに瞬殺された。

 

 ―――もちろん殺したわけじゃないぞ、腕相撲の勝負で負かせただけだ。

 

 いくらか軽くなってしまった財布を手にオレはいま、夜空の下を歩いている。

 キラキラと星の輝く夜空を見上げながら、酔い覚ましに宿までの散歩というところだ。

 今日の夜空は、月が眩しく思えるほどすっきりと晴れている。明かりに困ることはない。

「あの月みたいに、オレの財布も丸くふくれてくれればいいのにな」

 賭けに勝ったのだから、少しは懐も暖まりそうなものなんだが………実際には財布の中身は減っている。

 ある程度予測はしていたんだが、勢い余ってテーブルを壊したせいだ。

 もちろんあの熊男に、掛け金でテーブル代を弁償させたのだが………

 あの巨体がテーブルを壊す勢いで転がって、そばのイスまでバラバラにしてしまった。

 当然イスも相手に弁償させようと思ったが、テーブル代すらまともに払えない始末だったからな。

 仕方なくオレが補う事にしたのだ。

 

 ―――主人に迷惑をかけたくないからな、

 

 ったく……また貴重な旅費が減ってしまった。オレは残された時間で、一刻も早く“アイツ”の首に首輪をつけて、

 引きずり帰らなくてはいけないというのに。

「まぁいいか。これであの熊男も少しは懲りただろう。被害にあう旅人が減るだけでも意義は……」

 足と一緒に、言葉も止めた。

 前の方の路地から一人、歩み出てきたのだ。単なる通行人が、オレの前で通りを横切る………それなら何も問題はない。

 だが、おそらくただの通行人ということはないだろう。

 雲一つ見えない夜空、そこに浮かぶ月を背に―――つまりオレにとっては逆光になる形で―――その人はオレの正面で足を止めたのだから。

「………」

「………」

 足を止めたまま、相手の出方を待った。

 逆光のせいで男なのか、女なのか……そもそもどんな種族なのかすらわからない。

 オレ達のように“耳”が立っていないところを見ると、猫人や兎人ではないようだが。

「………」

「……こりた、なんてモノじゃすまされないわね、あの熊」

「…?」

 

 ―――女性……か、この声は。

 

「見せて頂いたわ、勝負。

 あなたのような若人に、あんな目にあわされたのだから。この町では当分の間、大きな顔は出来ない」

「ああ、さっきの………」

「なかなか楽しかったわよ」

「ありがとう。お気に召してもらえたかな?」

 まるで狙ってやったかのような口振りで言ってみた。

 彼女は酒屋の中から『見ていた』と言っている。その見られていた事に気付けなかった、それがちょっと悔しかったからだ。

「ええ、あなたの一面を見せてもらったんですもの。あなたは一つの重要な要素として注目しているから、ああいうのは嬉しいわよ」

「……注目?オレってあなたのような女性に追いかけられるほど、魅力は有りませんよ」

 少しおどけてみせながら、オレは全力で考えていた。

 

 ―――いったいいつから監視されていた?

 ―――オレを要素と言う、その目的は?

 ―――いったい彼女は何者なのか?

 

 遅くなったが、一応オレのことを紹介しておこうか。

 何も知らないままじゃ、この状況に戸惑う人も多いだろう?

 もっともオレ自身がわからないのだから、いまさら自己紹介しても状況は変わらないだろうが……

 オレの名は―――

「そんなことないわ。あなたは私にとって魅力に満ちているわよ、タクア。呼び名はタク」

「……オレの名前、知ってんだ。他にどれくらい知っているんだい?」

「そうね、わざわざ自己紹介してもらうことはないくらいかしら。

 タクア・フレイ。

 猫系獣人の獅子人。二年前に成人し、今年二十歳を迎える。

 素手から槍・弓まで“武”の全般をこなす」

「………」

「ある小さな森の中にある、隠れ里のような村の村長の孫。村では若い世代に人望が厚く、後々は村をまとめる、良い村長になると周囲も期待

 している」

 期待されているかどうかわからないが、彼女の言っている事はすべて当たっていた。

 確かにオレの生まれ育った、この旅に出るまでいた村は、小高い丘の森にある。

 街道から外れている為、隠れ里のように見えるのも無理はない。

「……まだ聞いてみたい?」

「………いや、十分……」

 下手に好奇心だしたら今朝の朝食はもちろん、風呂に入る時は右足から……なんてことまで言われてしまいそうだ。

 オレ自身だって覚えていないというのに、そんな事。

「そう言ってくれると助かるわ、後は大した事を知らないもの」

 微笑んでいるのか、どこか弾む声で彼女は言った。

 

 ―――いったい、何者なんだ?

 

「なまえ……」

「え?なにかしら?」

「名前、教えてもらえないか?」

「自分の事は色々調べられているのに、相手の事を何も知らないのはシャクに触る?」

「………」

 まったく、その通りだった。

 いったいどこまで調べられているのか………

「ん〜そうねぇ……悪いけど、まだちょっと早いわね」

「早い?」

「そッ、ほんとはまだ接触する気もなかったんだから」

「………」

「そんな怒ったような顔しないの。大丈夫、そんなに長い時間たたないうちにまた会うと思うわ。

 その時に名前も、顔も見せてあげる」

 彼女はそう言って、オレに背を向けた。

 

 ―――チャンス!

 

 オレは跳ねた!低く、鋭く、彼女の背後へ……一気に詰め寄るッ

 普通に歩いて十歩ほどの距離。オレのダッシュなら、半分以下の四歩で十分。

 調べる間、オレに気づかせなかったそのウデ……

「見せてもらう!」

「……もぅ、今はまだ早いって言ったでしょ?」

「ッ!」

 消えた?!

 もう、つかむ事の出来そうな距離まで詰めていたのにッ?

 

  …ゥ―――ン……ッ

 

 風を切る音……上?

 ダッシュの勢いを残したまま、足を滑らせながら態勢も整えずに上を振りかえる。

 彼女は『上』に、いた。

 おそらく後ろから跳びついたオレを、上へ飛びあがってスカしたのだろう。

 オレが姿勢を立てなおした時には、すでに彼女も着地して微笑んでいた。

 今度はオレが月を背負う形になり、とりあえず彼女の“顔”を見ることはできた。が、とても喜べるような心境じゃあない。

「よく、かわせましたね」

 かわされることそのものは、ある程度想像していた。

 しかしスピードに自信のあったオレが、ここまで完璧に逃げられるなんて………

「腕相撲でもみせた全身のバネ、瞬発力ね。さすがに大したものだったよ。

 でも『来る』ってわかっていれば、どうにでもなるけれどネ」

「………」

「…いいわ。あなた面白い」

「へ?」

 面白い?

 オレが?

「特別。私の質問に答えてくれたら、名前を教えてあげる」

 

 ―――オレ、カラかわれているのか?

 

 たしかに、オレよりは年上のような気がする。

 しかしそれでも、たかが五〜六才かそこら。それ以上とは思えない………

 そんな極端な差ではないはずなのに、まるで明らかな実力差があるようなこの扱われ様はなぜなんだ?

「………うれしくない?」

「え?あ、いや……良ければ、ぜひ聞かせて欲しい」

「それじゃ質問。

 タクア、あなたはプロトタイプがどこにいるか知らない?」

「ぷろと……たいぷ?」

「あ〜、明るい茶色の髪をした、私の姉」

「あなたの……お姉さん?」

「そう。私とはあんまり似てないけど、一目見れば結構インパクトあるはずよ。特に髪の毛はね」

 初対面の人の姉を知らないか?と言われても、まともな答えが出るはずがないが………それでも一応考えてみた。

 が、やはり思い当たる節はない。

 知り合いに茶色の髪の女性はいくらかいるが、そんなに印象深い髪の人なんて………

「すまないけど、思い当たる節はない………」

「そっか。いいよ、あまり期待もしていなかったから」

 

 ―――じゃあ、聞くなよな……

 

「ん、じゃあ私の名前、教えてあげる。あなた達の中では、私の名前を聞くのはきっとキミが初めてだよ。

 アタシの名前はハルカ」

「はるか………」

「そ、ハルカ。ハルカ・ブレイカー、忘れちゃ駄目だぞ!

 じゃ私、行くから」

「あ、ちょっ………」

 彼女……

 ハルカが、オレに背を向けて歩き出す。呼びとめる声にも、彼女は後ろ手を振ってそのまま夜の帳の向こうに消えていってしまった。

「ハルカ………か」

 

 

  ☆ ラウル eye ☆

 

 冬の間、寒さをしのぐために身を寄せていた宿を出発して早一週間。

 いま俺達は、街道沿いの“グッツゥ”という名の町にたどり着いたところ。

 この町は、あたり一帯ではそこそこ大きな街で、年間を通して割と活気に満ちている。

 いまも中央の広場では行商人が商品を並べているし、立ち止まってそれらの商品を見ていく人も少なくない。

 お昼時で暖かい日差しを浴びることが出来る時間帯とはいえ、まだまだ春らしい暖かな風と無縁なことを考えると、この活気はこの街ならで

 はだろうと思う。

 こういう活気のある場所は、不思議と人をワクワクさせる何かがあると俺は思ってる。

 俺も、何も買う気はないのになぜか足を止めて品物を見入ってしまう。

 

 ―――しかし……

 

《あの果物美味しそう♪あ、あんな服あたしもほし〜い、あたしのサイズに合わせて作ってくれないかな?あ!あっちで大道芸人が何かやって

 るみたい。見にいこ〜よラウル♪あーっ、ここ指輪とかネックレス、置いてあるゥ♪》

 しかしいくらなんでも、俺はここまで変わらないぞ?

 いったい何なんだ、このパムのはしゃぎ様は………妖精でも、やっぱり女の子なのかなぁ?

《ラウルッみてみて!すっごく綺麗だよ♪》

「あたっ、あたたッ!こ、こら、パムッ髪の毛を引っ張るな!」

《いいから、いいから。こっちこっち♪》

 パムの奴、さっきまであたりを飛びまわっていたかと思ったら……いきなり俺の左肩に降りて、耳のあたりの髪を引っ張りだした。

 すっかりはしゃいでしまっていて俺の声も聞こえていないみたいだ。

「パ、パムッお前な、いい加減に………」

《ほら、ここぉ♪》

 結局、無理矢理連れてこられたのは宝飾の露店だった。

 しっかりとした店舗を構えられない露店の行商で宝飾品を扱うのは、当たり前だが盗品・強奪されやすくて危険だ。

 そのため小柄で高額な品物を置く店は、あまり見かける事があまりないんだが………

「いらっしゃい。おニイさん、彼女に贈り物?」

「い、いや、俺は別に………その、連れが」

「連れ?」

 露店を出している商人、白を基調にした上品なフード付きのローブを着た女性が俺に声をかけてきた。

 その間にもパムは、並べられている商品の中へ降りて色々と楽しそうに見てまわっている。

 だけど、行商の女性がパムに注意を払っている様子はまったくない。

 

 ―――いっけね、忘れてた。

 

 俺がパムをとりあえず“妖精”と認めている理由、身体が小さい事と翼が生えている事。

 それにもう一つあるんだ、気付いたかもしれないけれど。

 パムは、普通の人には見えないらしいんだ。

 誰に見えて、誰に見えないのか?そこがサッパリわからない。

 俺にはハッキリ見えてるから、ついパムが他のほとんどの人に見えていないって事を忘れてしまうんだよな………

 なんで『見えたり、見えなかったりする』のかがわかればまだいいのだけど、それもわからないんだ。

 パム当人が『わからない』と言うのだから、どうにも調べようがないし。

「そのお連れさん、今はいないみたいだけど……おにいさんの彼女?どんな娘なのかしら?

 よかったら種族別で流行っているのとか、教えてあげましょうか♪」

「え、えーと、あ〜……弱ったなぁ」

 『精霊とか、妖精とかに流行っているジュエリーって何ですか?』って聞くわけにもいかないし………

 ようはこの場所から立ち去れれば良いんだけど、パムがウットリした顔で見ているからなぁ。

 無理矢理引っ張りあげてもいいけど、リングの一本でもしがみついて離さなかったら誤解されだろうな。

 ……とりあえず、駄目もとで『眼』をそらさせてみるか。

《パム、パム?》

《なぁに?ラウルが言葉じゃなくて、心で話してくるなんて珍しいネ?》

《今まともに話したら、この行商の姉さんに変な目で見られるからな。それより、そろそろ行かないか?俺、腹減ってきちゃって………》

《ヤダ。あたし、もうちょっとここにいる〜♪》

《……もうちょっとって、どれくらいだよ?》

《パムちゃん、わかんな〜い♪》

 あ、駄目だこりゃ。

 本気で日が暮れるまで居座りかねないぞ。なんせこういう時は、なにか狙っているに決まっているからな、パムは。

 なにかで妥協させなきゃ……

 

 ―――ん?まてよ………そうだ!

 

《パム、お前さ、こういうの見てて楽しいか?》

《ウンッすごく楽しいヨ♪》

 まったくこっちを見ようともしないな、パムの奴。

 ウットリとした表情で右に左にと歩いているあたり、ここの商品を“まともに”着けている自分を想像しているのかもしれない。

《どうせなら、着けてみたいと思わないか?》

《買ってくれるの?!》

《初めっからそのつもりで、俺を連れてきたんだろうが?》

《………エヘヘ、わかるぅ?》

 そりゃ、わざわざ俺を連れてくるあたり“みえみえ”だからな。

《でもおねだりするだけで、買ってくれるなんて思ってなかったぁ♪》

《なんだ、じゃ止めとこ》

《だめぇ!買ってくれるって言ったんだから、買ってよ!》

《俺は思っただけで、“買う”と言った覚えはないが?》

《………ぶぅ!》

 ハハハッパムの奴、頬を膨らませてむくれてやがるッ

 ま、この辺で妥協案、出してやるか。

《パム?》

《ぶぅッ》

《まぁそう怒るなよ》

《ぶうぅ!》

《一つだけだからな?》

《え?》

《一つだけ、お前の体にピッタリ合うヤツなら買ってやる》

《ホント!》

《言っとくけどなッ大して余裕なんてないんだからな、俺のフトコロは!》

《わあぁい!やったやったやった♪》

《……全然聞いてないね、この娘は》

 宝石をちりばめた宝飾品の中で、パムの奴ははしゃいで品定めを始めた。しかし、そう簡単に見つかるはずがない。

 なんせここは“普通の人”の宝飾店。小柄なリス人だって俺の胸くらいの背丈があるんだ。

 両手の平を合わせたよりちょっと大きいくらいでしかないパムの、その身体に合うものを探すというのはかなり難しい……はず。

 最悪、というか最良の場合、パムが買えるものは一つもないかもしれないな。

 

 ―――それが狙いなんだけどさ。

 

《少し時間やるから、よ〜く考えて選べよ?こんなこと、次ぎはいつあるかわかんないからな?》

《フフン、フゥフフン〜♪》

《それと、あんまり高いのは、お金払いきれないからな!》

《ランラン、ララララ〜ン♪》

《………高いの買うと、この寒空でまた今夜も野宿だからな》

 

  ギシッ……

 

 面白いほど正直に、パムの身体が固まった。

 やはり聞こえているくせに、無視していたか………

《ら、ラウルゥ〜》

《コースはな…

  一番・宿の二人部屋のおっきなベットでグッスリ。

  二番・いつもの一人部屋で普通に。

  三番・いつもの部屋だが、食事はさびしい塩スープ。

  四番・ズバリ!野宿と俺の自炊。

 さあ、どれを選ぶ?》

《………三番ね!

 どうせあたしはラウルに『生命の気』をもらっているから、別に食べなくたって死なないもん!》

《お、お前なぁ……》

 こ、こいつという奴は………本当に“妖精”なのか?

「……(ブツブツブツ)………」

「あの〜、お客さん?」

 かけられた声に、商品の並ぶマットの上で駆け回るパムから顔を上げてみる。するとすぐそこにフードを外した女性の顔があった。

 

 ―――あ、この姉さん、狐人なんだ………

 

「え?あ、は、ハイッな、なんでしょう?」

「もしお気に入りの商品の値段が高くて悩んでいらっしゃるなら、ご相談にものりますよ?」

「え?」

「なんだか、その……悩んでいらっしゃるようですから」

 なんだか少し心配そうな表情で、行商人の女性が俺の顔を覗き込んでいた。

 

 ―――ひ、ひょっとしてパムと話している間、なにか口に出してたのかな………

 

「い、いえ、まだ決めてないんですが……」

「はぁ、そうでしたか……すみません」

 や、やばい!

 意味もなく悩んでいたんじゃ、変に見られてしまうッなにか適当な理由、考えないと……!

「あ、あの、ほら、女の子ってこういうの好きでしょう?

 買っていってあげたら喜ぶかなって思って」

「……彼女?」

 

 ―――け、結構この姉さんもしつこいな………

 

「う〜ん……妹みたいな娘、です。たったの五日間だけだったけど……」

「……会いに行くんだ?」

「ええ、約束でしたから。今度はきっと、約束を守れると思って」

 そっと………自分の胸の触れてみた。

 肌着の下に着けているネックレス。そのネックに下がっている水晶の玉……俺は文字通り、肌見放さず大切にしている。

「……いいなぁ。私にもそんな“話せる人生”が欲しかったわ」

「?」

「もっと若くて綺麗だった時にね、そんな出会いがあればなぁ……ってね。

 アハハッおかしいでしょう、おばさん間近の女性がこんなこといっていたら?」

 そんなことを言って苦笑する露店の姐さん。俺には、とてもそんな風には見えないけどなぁ………ウ〜ン。

「………」

「………」

「………」

「……な、なにか言って茶化してよ、おにいさん。そんな真面目な顔されたら、ほんとに惨めな気分になるじゃない」

「……茶化したり、人を笑わせたりって苦手だから………」

「………」

「……ただ俺は、あなたがとっても綺麗だと思いますよ。それにあなた自身が言うほど……その、えっと」

「………ぷっ」

「ぷっ?」

「……クククッ……ン〜〜〜ッ」

《ラウル、ラウルッあったよ、あたしにあう大きさのネックレス♪…って、どうしたの、このお姉さん、お腹抱えて笑ってるの?》

《さ、さあ、それがさっぱり……》

 ど、どうしたのって言われても……俺、思った事をそのまま言おうとしただけなのに。

 何がそんなに笑えるんだ?

《ラウルが笑わせたんじゃないの?》

《別に……笑わせるような事を言ったつもりはないんだけど………なぁ?》

「……ヒ、ヒッ………ぷ、ぷはぁ〜…あー苦しかった!」

「……あの…」

「ゴメンゴメン、正面から見つめられてそんな事言われたの、久々だったものだから。

 ありがと、ン年振りにいい気分にさせてもらったわ♪」

「は、はぁ……お役に立ててよかったというか、何というか………」

「ん、役に立ったわよ♪そうね、その娘になにか買わない?お礼に安くしておいてあげるから!」

「え?いいですよ、そんな……思った事を言っただけなんですから」

「いいから、いいから。一つ選んでごらん!」

「で、でも……?」

 一言、本音言っただけで、そんな事してもらうなんて……と続けようとしたところで、何かに袖を引っ張られた。

 ふと視線を降ろしてみると………

《ラウル、あれ♪》

《………どういう意味だ?》

《だぁ・かぁ・らぁ、コレ♪》

 パムはふたたび商品の並ぶマットへ降りると、ある一つの白く輝く鎖のところで足を止めた。

 そして振り向くと、満面の笑みを浮かべて見せてくる。

 

 ―――つまりはそれが、パムが選んだ“俺が買ってやる”宝飾品ってわけか。

 

《……言いたい事は、わかった。だけどな…》

《いいじゃん、別に。

 タダより高価なモノはないって言うけど、タダじゃないんだし》

《お前……どっからそんな言葉覚えてきたんだ?》

《ヒ・ミ・ツ♪》

 

 ―――………はぁ。

 

「じゃあ……これ、いいですか?」

 俺はパムが選んだ、白く輝く鎖を手にとってみた。

 パムの選んだ“それ”は、とても細く、そのうえ俺には重みをほとんど感じないほど軽くて………

 

 ―――確かにこれならパムでも問題ないな、きっと。

 ―――しかし、よくあったな……こんな細やかな商品。

 

「なに?こんな細いのでいいの?もっと高価なの選んでいいんだよ?」

「いえ、それでいいです。えっと、その、あまりハデなの、好きな娘じゃなかったから」

「ふーん……まぁ、あなたがそれでいいって言うなら、それでいいけど………

 でも、なーんか私だけ得したみたいで、悪いね」

「そんな、このネッ………」

 

 ―――あれ?

 

《おいパム!》

《なに?お姉さんと話していたんじゃないの?》

《これ、お前はネックレスって言ってたけど、女物のブレスレットじゃないか?》

《そうだよ。それでもあたしには長いから、ぐるンぐるンって二回巻いて“ニ連”のネックレスにするんだから》

《なるほど……》

 考えたな、パムの奴。

 まともにやったんじゃ、自分の身体に合う宝飾品がないもんだから………

《なにか文句ある?!》

《いや。よく考えたなと思って、感心してた》

《そ、そうかな?》

《生後二年半にしては大したもんだ》

《………なんか、誉められてる気がしないけど》

 俺が素直に誉めてやっているのに。なぜかあまり機嫌の良い顔してないな、パムの奴。

《とにかく、これでいいんだな?》

《…(ニコッ)…ウン♪》

「……か、変わり身の早い奴」

「え?なにか言いました、おニイさん?」

 あ、いっけね。

 つい、声に………

「いえ、こっちのブレスレットを………」

 “〜お願いします”と言いかけて、言葉を止めた。

 パムの選んだ細かな鎖のブレスレット、その隣の腕輪が視界に入ってきたからだ。

 幅広な白い金属の輪、その中央にささやかに咲く花。

 金を使っているのか……花が黄色い輝きを放つ以外は、何も飾りっけのない。

 装飾に興味のない俺にも“単純だ”と、思わずにいられない作り………

 

 ―――なんかまわりがきらびやかなのに、これだけが質素な作りで……

 

 俺はなんとなく気になって、ちょっとその腕輪を手にとってみた。

「あの、これは?」

《ち、ちょっと、それ違うよ!ラウルッ》

《わかってるわかってる、見てるだけだから》

 肩で慌てているパムをなだめながら、手に取った腕輪を眺めてみる。しっかし、見れば見るほど本当に飾りっけがない腕輪だな。

「ん?その腕輪、どうかしたの?」

「いや、なんだかこれだけ不思議と目立っちゃって………」

「う〜ん……ある地方で作られてる、特産品みたいなものなんだけど。

 私が持っている商品の中では、飛び抜けて地味だから目立っちゃったのかもネ」

「と、特産品?」

「そう。なんかのお守り、だったはず」

「はず?」

「昔のことなので、忘れちゃったのよ。ゴメンナサイ!」

 し、商品の意味、忘れちゃっていいのかなぁ?

 頭を下げてる姐さんにちょっとあきれながら、もう一度腕輪を見てみた。本当に素朴な銀の輪。

 中央に一輪の花が黄色に輝いている、ただそれだけの………

《パム、これ、お前が見てどう思う?》

《つまんない》

《そ、即答か……》

《だって、つまんないものはつまんないモン》

 そりゃあ、ま、そうだろうけど………もう少し他に言い方ないもんかな?

 

 ―――う〜ん、まぁいいか。

 

「こっちの、細かな鎖のをお願いします」

「ほんとにこんな細いのでいいの?

 売ってる私が言うのもなんだけど、あんまりインパクトないよ?」

 アハハッ

 これでないといけない理由、知ったら驚くかもな。まさか妖精が欲しがってるなんてサ。

「いいんですよ。あんな言葉だけで得させてもらって、こっちの方こそ悪いなって思ってるし。

 それに、何年かぶりに会ったそうそう、ハデなの渡すのも変でしょう?」

《それはあたしの!》

 行商の姉さんとの話しがちゃんと通るように、少し作り話し的なところを入れていたら右肩からすぐに文句が飛んできた!

 融通の利かないやつだな、まったく。

《わかってる、わかってるって。でも、こう言わないと話しが通らないだろうが?お前の姿、見えていないみたいだから》

《……ぶぅ〜〜〜》

「あはは、気にしなくていいのに。ン〜……なら、よかったらお昼付き合ってくれない?」

「え?でも、お店は……」

「大丈夫、もう交代時だから。

 レイカ!」

 彼女は俺の後ろへ、名前を呼んだ。

 俺の背後は、この広場の中央方になる。

 振り向いてみるとそこには噴水があって、その縁に彼女と同じように真っ白なローブを着た子供が座っていた。

「ちょっと早いけど、昼食べてくるから。店、見てて!」

「えーっ、お母さん、早いよっ!」

 

 ―――えっ!?

 

  ゴンッ!

 

 慌てて走ってきた子供―――名前から考えれば、女の子、だな―――に、露店の姐さんは握りコブシを一つ頭に落とした。

《うわぁ、痛そ〜〜〜》

《あれはきっと、いや結構痛かったと思う》

 手加減、してるように見えなかったもんなぁ……全然。

「馬鹿ッ、外では“姉ちゃん”って呼べって言ってんでしょうか!」

 しかし、この姐さん………子持ちだったのかぁ。

 とてもそうは見えないけど、わからないもんだなぁ………

 

 ―――そう言えば、似たようなことが昔あったっけ。

 

「ご、ゴメン!」

「とにかく、食事に行って来るから。その間、お店をお願い。無理に売らなくていいから、適当に客さばいておいて」

「……(コクン)」

 少女(だろうと思う)は、やっぱり痛かったのか………フードを降ろし、頭をさすりながらうなずいた。

 あれ……この子、確かに犬系だけど……狼人の子?

 お母さんは狐人なのに………混血児なのかな?

「さ、行きましょうか。私のお勧めできる店でいいでしょ?」

 行商の姉さんの替わりにチョコンと座った狼人の子、レイカちゃん。

 その彼女をよほど信頼しているのか……この姐さんは、俺が戸惑っているうちにすでに歩き出していた。

 半ば仕方なく、俺達も後を追って歩き出す。

《どうするの、ラウル?》

《せっかくのお誘いだからな……よくわからないうちに色々良くしてもらっているし、断わるわけにもいかないだろ?》

《食事に付き合うのも、料金のうち?》

《………》

 ほんとに、いったいどこで覚えてくるんだろうな………こんな言葉。

《俺はあんまり好きじゃないぞ、そういう考え方は》

 

 ―――なんだか子持ちの親父みたいな気分だな、これじゃ。

 

 俺は右肩でくつろぐパムに注意しながら、妙な気分で行商の姐さんと一緒に昼時の街中へと歩き出して行った。

.........to be continued...........

 

THE REAL WORLD   Second Season
「麦藁帽子の下で……」第二章 ☆ “出会い?”


・BACK   ・NOVEL INDEX   NEXT・