HE REAL WORLD Second Season 「麦藁帽子の下で……」
[ 第三章 ☆ “予感?”]

 ☆ タクア eye ☆

 

「交易の宿場町、グッツゥか。さすがに活気があって大きな街だな………」

 沢山の商店の並ぶ大きな中央の通り、まだようやく春先になったばかりの寒空にもかわらずいくつも並ぶ露店とその商人達。

 そしてその通りを歩く人の数。

 どれをとっても、俺の里村には無いものばかりだ。

「………と、感心ばかりもしていられないな。今日・明日でアイツの足取りだけでも捕まえなければ」

 それができないのなら、もう帰らないといけない。

 オレが役目を代わらないと、“彼女”は自ら『嘘ツキ』になってしまうからな。

 

  ぐきゅるるる〜〜〜

 

「……………」

 い、今の、誰にも聞かれなかっただろうな?

「……(キョロキョロ)……」

 

 ―――ふぅ、大丈夫みたいだな。

 

「とりあえず食事を済ませるか、ちょうどお昼時だし」

 腹が埋まれば、少しは前向きになれるだろう。昼時の込む時間帯だし、アイツのこともなにか聞くことが出来るかもしれない。

「そう言えば“ハルカ”とか言う得体の知れない女性、今もオレをマークしているんだろうか?」

 ………

 ……辺りには、見えないな。

 本当に居ないのか、そう何度もオレの前に姿を見せる気がないのか?

「まぁいい」

 少なくとも今は、害になっていない。

 それで十分だ。

「どこへ食べに入るかな………裏の、さびれた感じの店に入ってみるか」

 

 

 ☆ eye’s ☆

 

 ―――いま、彼のような者を見つけることが出来るとは………

 

 石材と木材を使い造られている建物が立ち並んでいる。

 その中の一つに、彼はいた。

 そこは“人”が食事をとるところなのだろうか、大勢の人が集まっている。

 どうやら“彼”も、その一人のようだ。食物を口にしている。

 同時に向かいに座る女性と、会話をしていた。

 時折、笑みもこぼれている。

 

 ―――ここは彼ら“獣人”の、談笑の場でもあるのだろうか?

 

 ………食事の場ではあるが、談笑の場という見方も決して間違ってはいないようだ。

 彼は何も特別なことはしていない。周りの者達と同じように、食事を取り、話しをしている。

 しかし私は、その姿に戸惑いを隠せない。

 彼は耳が立っている。尻尾もあり、その姿は『狼人』と呼ばれている者達と同じもののように、私には見える。

 彼は違和感なく、周囲に溶け込んでいる。

 

 ―――姿を偽っているのだろうか?

 

 ………否。

 あれが、彼の生まれながらの姿のようだ。

 しかし、あの特徴は彼等の人種にはありえない。過去でも、特有の者のみが持つ特徴であるはず。

 

 ―――では、いったい彼は誰だ?

 

 ………わからない。

 彼について、私にはまったく記録がない。

 あの特徴的な髪、特に顕著に出ている前髪は、たしかに私の記録にある。

 しかし彼についての記録は、私の記憶にない。

 いったい彼は何者なのだろう………

 

 ―――しばらく見てみよう、彼等を。

 

 ハルカのマークした彼も、都合が良いことに彼と同一の建物の中に入った。

 彼女はあの青年を“基準”としてマークしたようだが、『楽しい』とも言った。

 あのハルカが、感情を口にするとは、不思議な事だな。

 

 ―――彼女は、いったい彼にどんなものを感じたのだろう?

 

 わからない。

 私と彼女、生まれた理由は同じ。

 

 ―――非常に似た者なれど、同一ではない。

 

 『しばらく見てみよう、彼等を』

 

 

 ☆ ラウル eye ☆

 

 露店を少女―――レイカちゃんに任せてしまって、露天商の女性は俺をある食堂に案内してくれた。

 その店は中央の通りから外れたところにあるにもかかわらず、狭い店内は思ったより多くの人で込んでいる。

 いくら昼飯時とはいえ、この人だかりなら、味への期待も膨らむッてもんだな。

「ラウル君、一人旅は長いの?」

 彼女、レオナさん――行商の姉さんの名前だな――がそう訊いてきたのは、注文した昼食が来てすぐのこと。

 期待の料理を目の前にして、ちょっと「お預け」されてしまった感じ、だな。

「…そうですね、もうすぐ三年です。長いと言えるのかわからないけど」

 考えてみれば親父と別れてから、もう三年かぁ。

 ま、実際には一人旅って言っても―――

《あたしは?パムは“数”に入っていないの?》

―――がいるから『一人旅』ではないけどさ。

《しようがないだろ、普通の人には見えないんだから》

《チェ、何だかつまんないなぁ〜》

 懐でパムが不満そうな声をあげた。そんな彼女に俺は内心で苦笑しながら、懐に手を入れて一度だけ頭を撫でてやる。

「ラウル君、御両親は?」

「いますよ。ただ……ちょっと病気にかかっていて」

 

 ―――病気…か。とっさに言っちゃったけど、とりあえず間違いじゃないよな。

 

 母さんは俺が物心ついたときからずっと眠ったままだ。

 俺は幼いころから父さんと一緒に、母さんの治療法を探して旅を続けて来たんだ。その父さんも、三年前に流行り病にあたって倒れた。

 一命は取り留めたけど、もう旅の出来る身体じゃないって爺さんは言ってたっけ。

「そばに居てあげなくていいの?」

「ええ、両親のことは爺さんに任せてきましたから」

「でも、ご両親、寂しいんじゃない?」

「しようがないですよ。俺しか治療方法を探せる奴がいないですから」

 ちょっとだけ、苦笑を顔に出してレオナさんに答える。そんな俺を見て、彼女がちょっと顔を曇らせた。

「そっか、そうだね。

 ゴメンなさい、勝手なこと言って。私は病気には詳しくないけれど、治療法が早く見付かるといいわね」

「すみません。せっかくの食事の前になんだか、暗い話しになってしまって」

「いいのよ、もともと私が聞いたんだしね。

 そっか………もしも孤独の身の上の、宛てもない旅ならって思ったんだけど」

「?」

 一人身の、宛てもない旅ならどうするつもりだったんだ?

「レイカを見て、どう思いました?」

 いきなりだな?

 ………そうだな、ちょっと気になることもあるけど、印象としては―――

「カワイイお子さんですね。俺なんかと違ってちゃんということをきく、良い子みたいだし」

「そうでしょうね。あの子は私と違って、良い家柄みたいだったから………」

 

 ―――え?

 

「あの―――」

「ラウル君の旅の目的、早く見つかるといいわね。お姉さんも応援しているわ、なんの役にも立てないけれど」

 少し目を細めて、やさしげな表情でそう言ってくれるレオナさん。

 そんな彼女を前にして、俺の中に沸き上がった好奇心はすぐに消えてしまった。

「ありがとう……ございます」

 聞きそびれた……と言うより、逃げられたかな?

 俺の頭の中には、勝手な勘繰りの結果が既に出ている。けど、あえて確認しないことにしよう。

 

 ―――“それ”がわかったからといって、俺には何も出来ないのだから。

 

 そんな俺の気持ちを知っているのかどうか、レオナさんは突然何かを思い出したように自分の手のひらを“ポンッ!”と叩いた。

 なんか、嫌な予感………

「でも御両親のことの前に、これから彼女に会いに行くんだっけ?」

「だ、だから、彼女ってわけではないですよッ子供の頃の約束を果たしにいくんですってばっ」

「あらあら、照れなくてもいいのに♪」

「違いますって!」

 そりゃ彼女とは当時いろいろあったけど、あれからもう八年もたってる。

 俺は色々なところに旅をしてきたから、その間に出会いもあれば、別れもあった。色々な思い出が上に、上へと重ねられてる。

 『だから』とは言わないけど、あの時の全てを鮮明に思いだせるわけじゃない。

 

 ―――彼女がどういう選択をしていても、認めてあげられるように………心構えしていないとな。

 

「……………」

「………ラウル君?」

「はい?」

「胸に手あてて、なにしてんの?」

「あ、いや、アハハ………」

 ついクセが出てしまい、水晶の玉の感触を手に苦笑を浮かべる。

 そんな俺の顔を覗き込むようにして見ると、レオナさんは『ニッ』と笑った。

「さ、食べましょう。せっかくの料理が冷めちゃう」

 そう言ってレオナさんは笑顔で、ナイフとフォークを手に取った。

 そして滑らかにナイフを使って、大皿の料理を二人分に切り分けてくれる。

《ねえねえ、ラウル》

《どうした、パム?》

 気がつけば、懐から出て来ていたらしいパムが、俺の耳元で声をかけてきた。

《うん、ちょっと散歩してきてもイイかなぁ〜って》

《散歩?》

 確かに俺のふところで、ただ大人しくとしているのは辛いかもしれない。唯一相手をしてやれる俺も、今はこの状況だし。

《わかった。でも、よく注意するんだぞ?それと、ネックは置いていくこと》

《なんで?》

《周りの人にパムの姿は見えないだろうけど、ネックレスはそうもいかないだろ?》

《それもそっか。じゃあ、しようがないね》

 パムは一度俺の肩から降りて、すっかり気に入ったらしいネック、もとい普通サイズのブレスレットを外して、いつも彼女が入っている上着

 の内ポケットに戻したようだ。

《あたしがいない間に、なくさないでよね?》

《気をつけておくよ》

《じゃあ、行ってくるネ♪》

 俺の胸元から飛び出て、肩をジャンプ台にしてパムが飛びたっていく。

 小さな翼をはばたかせる彼女の後ろ姿を眼で送りながら、俺は胸から手を―――正確にはシャツの下のペンダントから手を離した。

 そんな俺の姿を見ているレオナさんがちょっと微笑む。

「やっぱり、不安なんだ?」

「え?」

「そのシャツの下に、なにか記念のものでもさげているんでしょ?」

「あはは………お見通しですか」

 さすがは年の功………かな?

 

 ―――間違っても口に出したら、何されるかわかったものじゃないけど。

 

「どれくらいたってるの?」

「七年……もうすぐ八年になりますね」

「もし、彼女がもう誰かを選んでいたら、どうする?」

「そうですね、祝福してあげたいです」

「ふぅん、認めてあげられるんだ?」

「……その、つもりです」

 

 ―――まったく、かなわないな。

 

 心内で苦笑しながら、彼女の質問に答えてあげる。

 俺がどう答えるか大体見越して、あえて質問したんだろうな。そんなことされちゃ戸惑うよ、ほんとに認めきれるのか?って。

「彼女の周りには、彼女を思っているイイ奴がいましたからね」

 思い出すことが出来た少年の顔に、つい口元が苦笑でほころんでしまう。

 あの時のアイツ、顔を真っ赤にしてたからな。

「どうかしたの?」

「いえ、ちょっと昔を思いだしていたんです。今頃どうしているかな、って」

「案外、そばにいるかもしれないわよ?」

「アハハ、まさか―――」

《ラウルラウルラウル〜〜〜!》

 苦笑しながら料理を口に運ぶ俺の肩に、パムが大慌てで俺の名前を連呼しながら文字通り飛び戻ってきた。

《なんだよ、大声出して。散歩に行ったんじゃなかったのか?》

《ラウルッそんなにのんびりしている場合じゃないよッアレがほんとに来ちゃったの!》

《アレ?》

《ほら、えっと、そのッ、そうだ、コレよ、コレ!》

 そう言ってパムが指差すのは、自分自身の背中から生えている翼。

 身体相応に小さいが、純白の羽が美しくて、パム自身も気に入っているらしい。

 しかし、今はそんなことを言っているわけではないようだけど………

《ラウルならわかるでしょ、あたしが言いたいこと!》

《それで、どないしてわかれっちゅうねん………!》

 

  ガタンッ!

 

「ラウル君?」

 俺は突然、弾かれたように椅子を蹴倒して立ち上がったッ

 レオナさんが驚いているようだったけど、俺の心境はそんなことを気にしてられない!

 ついパムに突っ込みを入れた俺だが………幸か不幸か、パムの言いたいことがわかってしまったからだ。

「ま、まさか、来たって言うのは、“追って来た”と言う意味か?」

「ラウル君?」

《あたり!ビックリしたよ〜〜ッ。

 あたしがさっきの広場に行ってみようと思ってたら、この店を出た目の前にいるんだもんッ慌てて戻ってきたんだから!》

「あっちゃ〜、本当に追って来るなんて………」

 パムの『カン』が当たったってわけか。

「マズイなぁ」

《で、どうするの、逃げる?隠れる?》

「ちょっと、ラウル君?」

「弱ったなぁ………帰るように説得できるなら、それが一番なんだろうけど」

《無理無理!まともに話し聞くような人じゃないのはよく知ってるくせにッ》

「だよなぁ、ここは素直に逃げるか………」

「お〜い、ラウル君?」

 

 ―――ん?

 

「レオナさん、なにか言った?」

「ラウル君。キミ、いったい誰と話しているの?来るとか追われているとか、説得とか……」

「え?………あ!」

《し、しまった、今の全部、声に出してたのか、俺?!》

《……そうだよ、確か》

《お、おしえてくれよ、そう言うことは!》

《あたしもビックリしたままだったから、忘れてたの!

 だ、大体、それはラウルの問題であたしの問題じゃないでしょ!》

 

 ―――そ、そりゃそうかもしれないが、元々はパムが俺以外の誰にも見えないからだろッ?!

 

 ノドまで出かかった言葉を、グッと飲み込んでガマンする。

 見える見えないは、パムの意思でどうこうできないんだよな……

「あ、あはは……す、すみません、ちょっと席を外します!これ、俺の分ですッ」

《逃げるぞ、パム!》

 ここでパムと言いあっていても始まらない!

 俺はテーブルに数枚の硬貨を置いて、レオナさんに軽く頭を下げた。

「ち、ちょっと、ラウル君?!」

「余る分はレイカちゃんに本か服か、喜ぶものを買ってあげてください!」

 肩越しに叫びながら、俺はバタバタとカウンターへと走るッ

 その俺の隣では、翼をはばたかせて飛ぶパムが呆れ顔をしていた。

《あ〜ぁ、これでさっきの得した分はみんなパァでしょ?》

《いいの!俺の想像が正しければ、レイカちゃんには両親がいない!レオナさんだって、とても裕福とは思えないしなッ》

「マスター、出口あそこ以外にない?」

「ない」

 外れにあるわりには繁盛しているこの食堂。その店主は、俺の問いに料理の注文に追われながらニベもなく答えてきた。

 仕方なく俺は懐に手を突っ込み、あるものを握ってからカウンターにその手を伏せる。

「マスター、これでお願い!」

 俺が手をどける。カウンターには銀色の硬貨を一枚残している。

 それを確認すると店主は“ニヤリッ”と笑ってみせた。

「左から厨房に入りな。奥に店の裏へ出れる勝手口がある」

「感謝!」

 俺は言われた通り、左側から入って厨房の奥へと走った。そこには確かに少し汚れた感じの扉が俺を待っている!

「よし、出口だ!」

《明日の自由のために、脱出ゥ!》

 俺は走る速さのまま飛びつくようにノブへ手を伸ばし、そのままの勢いを利用し肩で扉を押し開けて脱出ッ………!

 

  ドカッ!  ぽんっ

 

「ギャッ」

《きゃん!》

 

 ―――ちゃんとノプ回してから、扉に体当たりしたのに………

 

「……な、なぢぇ、開かない?」

《そ、そんなの知らないよぉ。ア〜ン、もう、ラウルがドジするから鼻打っちゃったじゃない!》

《お前なんかまだマシだ、俺の背中だろうが……》

 俺なんか、ドアだぞ、ドア。

 しかも今の体当たりでキシミすらしない、頑丈なやつ。

「おいおい若いの、そりゃ“引く”ドアだぞ?」

 

 ―――なっとく………

 

 と、とにかく早く逃げないと気付かれる!

「行くぞパムッ」

《はぁ〜い》

 今度はノブをしっかり握って、扉を引く―――

「クッお、重い!」

 全身の力を込めて引いた途端、なにかつっかえがはずれたように扉が開いた。

 唐突に開いた扉にバランスを崩しながら、どうにか倒れないようにふんぱる!

《開いた!》

「よし、今度こそ、だっ…しゅ……つ………」

 自由へとつながっているはずの裏路地に、俺は飛び出す………ハズのところで、身体を硬直させた。

 なぜなら―――

「ラウル、待ってたわヨ!」

―――待ち伏せ、されていたからだ…

..........to be continued...........

 

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「麦藁帽子の下で……」 第三章 ☆ “予感?”


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