パルミティア 序章.〜目覚めるとそこは〜

原作 アトレイド

序章.〜目覚めるとそこは〜


 忘れられた時代、伝説でしか語られることのない時代、ある事実は史実として伝わりまたある事実は歪められ誰も真実を思い出せなくなっていた。原初の世界が1つだった頃、貴方の中にも眠っている記憶。これは原初と現在を紡ぐ物語・・・。

 ぼんやりと薄暗い空間に彼は佇んでいた。目の前に広がるのは延々と続く闇の空間、そして、無数の白い点、蒼い球体。
「夢?何だここは…、暗い…宇宙。誰だ?俺を呼ぶのは…だ・れ・だ…」

「アダム…私のつがい…悠久の時を超え…再び巡り逢う刻が…きた。」

 ピチャン…ピチャン…鼻の頭に雫があたり瞼を光が叩く。もう声も聞こえない。
(…朝か…変な夢だ…もう起きてもいいのか?なら起きるか…今日も退屈な毎日が始まる。)
そして彼は…伝説は目覚めた。

 気がつくと彼は見渡す限りの草原に横たわっていた。まるで地平線まで続いている様な。一面・・・緑、また緑。頭上には青々とした新緑樹が生えていて、周りには他の樹は見当たらない。空は澄み渡っていた。何故か彼の座しているところにはふさふさの毛並みをした犬が潰れていた。大型犬のようで、全長は約1メートル半ほどであろうか。彼が現状を把握しようと考えをめぐらせていると、どこからか怒鳴り声が聞こえてきた。

「重いぃ〜いきなりどっから沸きおった!!私の昼寝を邪魔しおって〜!」

 発声源は下敷きにしている犬のものだった。彼――安田務はそう察すると怒鳴り返す。

「知るかぁ!んなことよりここはどこだ!!何で犬が喋るんだ!!!」

「私の質問が先だ!!どこの種族か!いや、いいからとりあえずそこを退け!」

 ジタバタと手足を動かす犬。務はムクムクとイタズラ心が刺激され、その場で貧乏揺すりを始めた。

「ほー。それが人にモノを頼む態度なのかな〜?うりうり!!」

「あぐぅぅう。私が悪かったです!早く退いてくださいぃ!」

 涙目になって苦しそうに呻く犬が哀れに思え、務はどいてやった。主導権は握ったことだし、状況を整理するために人語を解する不思議な犬に話しかけることにする。

「いいかワンちゃんよ。俺は気がついたらここにいたんだ。それにどこの種族だとはなんだ。どっからどう見ても人間様だろうが。」

 未だ涙目の犬は不思議なものを見たとでもいうような顔をしている。なかなかに表情豊かである。

「何を言っている。人間など遥か昔に滅びたではないか。それに私は犬とか言う名前ではなく、デュシャルムと言う名前がある。」

「おい犬。いいか?百歩譲って言語を解する犬がいるということは認めてやろう。だけどな人類滅亡だと?んなもん誰が認めるか!この犬が!!」

 突拍子のない話に務が興奮して詰め寄る。が、デュシャルムは意に介さず。

「私の名前はデュシャルムだと言っているだろうが。呼びにくければシャルでもよいぞ。しかしお前は嘘をついてない様だな。話を聞いてやろう、人間を名乗る者よ。まずは・・名前を名乗らないか?」

 その落ち着いた声に多少我に返ったのか、務は事の経緯を思い出しながら話し始める。

「俺の名前は、安田 務(ヤスダ ツトム)見ての通り人間で性別は男。歳は18歳だ。確か俺は・・・学校の帰り・・だな。本を読みながら歩いていたら何かの穴に落ちて・・気がつくとここに居た。ここは・・・どこなんだ?」

 デュシャルムはその説明に満足したのか大仰に頷く。

「ここは パルミティア だ。遠い昔、人間が神との契約を破り、追放され、人間が存在しなくなった世界。君の記憶に最も近い言葉から言うなれば エデン という事になるな。」

「エデン・・・か。ここはやっぱ、俺のいた世界とは違うんだな。」

 なんとなく想像はついていた。今いるところだけでも雰囲気が違う。なんというか空気の軽さ、純粋さが自分の知っているものとは違うのである。気が沈んだのか顔を俯ける務にデュシャルムはどう声をかけるべきか躊躇した。

「はぁ〜〜〜〜〜〜。」

ふいに務が長いため息をつく。肺の中の空気を全て搾り出すとガバっ!顔を跳ね上げる。

「で!!どうしたら俺は元いた世界に戻れる?コレでも受験生なんでね。さっさと英単語の続きを暗記しなけりゃならんのよ。」

 あまりの切り替えの早さに、額に汗を覚えるデュシャルム。

「解らん・・・。が、お前は異世界から着たのであろう?つまりは時空間を渡ったわけだ。空間を渡る術である 転送術 を使える真言士なら可能かもしれないがな。」

「質問〜。転送術は何となく解るとして、真言士ってなんだ?」

「君の記憶の言葉に当てはめると魔法使いになるな。」

(フーン。・・・要するにここはファンタジーの世界なんだな、きっと。)
「で、その真言士はどこにいるんだ?」

「君の目の前にも一人いる。私だ。だが転送術が使えない。まだ駆け出しなので君とこうして会話するぐらいだ。」

「どうすりゃいいんだよ。延々と探して回らないといけないのかぁ・・・?」

 肩を落として項垂れる務にデュシャルムが続ける。

「だが、私の母なら或いは…」

ガシっ!

 言い終わる前にデュシャルムの肩を掴み逃さないようにする。ほんの少しの手掛かりを失くすまいと必死の形相の務。

「今すぐお前の母親に会わしてもらおうか。さぁ!さぁ!!さぁ!!!」

 強烈にシェイクされるデュシャルム。あまりの腕力に引き離せもしない。

「わわわわわ、わかったから手を離せ。いや、離して下さい。痛い!痛いぃ!!」

「あ、すまんすまん。」

 悲鳴に近い声に慌てて手を離す。

「ふー、ふー、痣になったら、どうしてくれる!まったく、人間というのは野蛮なのだな。・・・まあよかろう。こうして出会ったのも何かの縁であろうしな。」

「おお、紹介してくれるのか!恩に着るぜ。」

「では、ついてきてくれ。ちょうどあの丘陵を越えたあたりが私の家だから。」

 言いながら首で示す方向にはちょっとした丘があった。さっきまでは気付かなかったが何やら煙のようなものが立ち上っている。

「ふーん。あっちのほうか。なんか煙が立ち昇ってるな。」

「ちょうど、母が夕食の準備をしている頃だからな。」

(・・・待てよ?なんで犬の格好したこいつの母親が炊事なんかしてるんだ・・?)

「さっきから、犬、犬と私を呼ぶな。デュシャルムと名乗ったであろうが!!」

 憤ったシャルが噛み付かんばかりに迫る。犬という単語の意味は解っていないのだろうが何となくバカにされているようで気に食わないのであろう。

「あ〜悪かった悪かった。デュシャルムな。・・シャルでいいんだろ?」

 宥める務・・と、ふと疑問が頭によぎる。

(あれ・・・さっき俺は声に出して犬呼ばわりしたんだっけ?)

 と、心に思うとシャルが答えをくれた。
「…私は少しだが心を読める。今こうして会話しているのも心で会話しているからだ。心からの会話だからこそ君の言葉も解かるのだ。今後はヘタな事を思わないほうがいいぞ。」

「か、かってに読むんじゃねえ!。それから、君じゃあなくて名前で呼べ。俺も今度からシャルって呼ぶから!」

「かってに読んだことは悪かった。しかし君の言葉は私には理解できなくてな。それに君の名前は長くて呼び辛いのだ。」
(それに・・・そこまで心を開いているくせに読むなというほうが無理な注文であるし。)

「むぅ〜。」
ああ言えばこう言うでなんだか癪に障る。だがこれからお世話になると考えると名前を呼ぶということは結構重要なことだ。腕を組みながらひとしきり考えると。

「解った。仲間内では アダム で通ってるからそう呼んでくれ。まぁ、音読みにしただけなんだけどな。それかツトムって呼んでちょ。」

「アダムぅ!?」

 それを聞いたシャルは元々大きな目を一層大きくさせ驚いた。その声の大きさにツトムも驚く。

「な、なんだよ?俺の呼び名に何か問題でもあんのか?」

「別に・・そろそろ私の家が見える頃だ。きっと母も歓迎してくれる。君が アダム 殿なら。」

 シャルの視線の先に赤レンガ調の一軒家があった。黙々と歩く一人と一匹。間が持たず、何か聞いておくべきか・・・とツトムが思っていると。

「・・・ところで 犬 とはどういうものなのだ?」

(ギク!?・・・ここは敢えて言うまい・・・。プライド高そうだから後が怖いしな。)

「今の ギク!? って何だ?」

「な、なんでもない!!ほら、急ぐぞ。俺は早く元の世界に帰る手掛かりが欲しいんだからな。」

 と、シャルの質問をごまかしつつ足早に家に向かうツトムであった・・・。

 ..........to be continued...........

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