パルミティア 第三章.〜決意の一撃〜

原作 アトレイド

第三章.〜決意の一撃〜

 シャルと入れ替わりでブレアが戻ってくる。・・・とツトムは不思議なことに気がついた。

(え・・・そういえば今ってまだ夕方くらいだろ。もう寝るの?)

 慌てて窓の外を見ると周囲は闇に支配されていた。そう、いつの間にか夜になっていたのだ。ツトムの体感時間ではまだ2時間程度しかたっていないと思われたのだが・・。

(まぁ、気のせいだろう。色々なことあったし時間の感覚が狂ってもおかしくないだろうしな。)

「アダム様。客室のご用意ができました。どうぞこちらへ。」

「その前にさ、もう一杯お茶が欲しいな。まだ聞きたいこともあるし・・・。」

「まぁ、なんでしょうか?なんでもお尋ねになってください、私の知っている事でしたらなんでもお答えいたしますわ。」

 言ってお湯を注ぎ始める。

「原初の人間の名前もアダムなんだろ?そしてブレアさんはアダムと会ったことがある。違う?」

 紅茶を入れようとした手がぴたりと止まった。核心を突いたようだ。

「…そのとおりですわ。私は昔アダム様に仕えておりました巫女でした。でも、どうしてそう思われたのですか?」

「簡単さブレアさんは俺の手を握り『人間の手に触ったのは久しぶりだ』と言ったよね。そして、そしてこの世界で言う人間はアダムしかいない。って事はブレアさんはアダムに過去接触したことがあるんじゃないかと思ってね。まぁ、半分は勘かな?」

 その洞察力にブレアは驚愕を覚えた。しかし別段隠すつもりではなかったのか動揺はない。その物腰の上品さは少しも損なわれない。

「…アダム様。その上で何をお聞きしたいのですか?。」

 ブレアも直球勝負だ。

「ああ。もっと具体的な手がかりさ。どうしてアダムはいなくなったのか。パルミットは全部でいくつあるのか。そして、イヴはどこにいるのか。ってとこかな。」

 もっともな意見である。ブレアは全てではなくともいくつかは答えられるであろう。しかし。

「答えられません。それらのことは全て、アダム様がご自分の力で知るべき事でございます。どうかお許し下さい。」

 ブレアは深く頭を下げた。ツトムは やっぱりな と言う顔をしている。

「まぁいいさ、ブレアさんにも話せない事情ってんのがあんだろ?それなら深く追求はしない。でもこれだけは確認しておきたいんだ。ブレアさんは俺の味方かい?」

 アダムの質問はもっとストレートだった150Kmはでている。

「はい。もちろんですわ。」

 彼女はその質問に戸惑うことなく最高の笑顔で答えた。ツトムはそれに満足したのか、それ以上追求することをやめた。

「それではもうお休みになって下さい。今夜一晩ゆっくり考えてそして御決断をお願いしますわ。客間に案内しますのでこちらへ。」

 そう言い彼女は立ち上がる。その後をツトムは慌ててついていく…と、不意にイタズラ心が湧き出した。

「ブレアさんは何で再婚しないの?シャルの事もあるし、自分の種族が残り二人って焦らない?」

 ブレアがドアの前で立ち止まる。一つ間を置いてから振り向いた。

「私、これでも理想が高いんですの。あの人を越えるような人でないと、とてもじゃないけど受け入れられませんわ。それにこんなおばちゃんを口説くような物好きもいませんでしょ?それともアダム様。こんな私を口説いてくださるのですか?」

 大人の微笑を浮かべる。妖艶でさえある。ツトムは少し質問した事に後悔した。

「そ、そうだね。その事についても考えておくよ。」

 熟練のあしらいかたにLV1のツトムがかなうわけもない。背中に冷や汗を感じつつ返事するのがやっとである。

「くすっ。お上手ですのね。では期待しないで返事をお待ちしますわ。おやすみなさいませ。」

 そう言うと彼女はツトムの額に軽くキスをし立ち去っていった。

(勝てないよなぁ。)

 と心の中でそっとつぶやき、ため息を一つついて部屋に入った。ツトムの完敗だった。

 用意されたベッドに寝っころがる。この世界に飛ばされたときの持ってきた荷物をそばのテーブルに置いた。なにげなく腕時計を見る時間は…午後8時。

「あれ?」

 先ほどの外の様子は雰囲気的に考えても深夜である。時計が狂ったかな?などと思いつつブンブンと手を振ってみるが、軍用モデルで頑丈に作られたデジタル時計が早々狂うはずはない。

(おっかしいなぁ・・これはアメリカ海軍でも使ってるようなモデルだぞ。どうして狂うかなぁ・・・。あ、この世界に落ちたときに壊れちまったのかな?はぁ、ついてねぇな。)

 何気なく部屋の様子を見回してみる。樫の木?でできた丸いテーブルにベッド、クローゼットに照明のランプ。なるほど元いた世界で俗に言われる客間と何ら遜色がない。その事に少し親しみを感じ多少落ち着いたらしく、少し頭を整理する、現状を確認する。

(この世界には純粋な人間は存在しない。いや、いた。その名は アダム 俺のあだ名と同じ名で他に人間と呼ばれる生物は存在しない。人間の格好をしていても術で化けているだけらしい。化ける理由はズバリ繁殖のため、種族間の関係なしに子を産み育てるため、絶滅を防ぐためって事らしい。はっきり言ってシャルの化けた姿なんて詐欺だ、あれの正体が犬だなんて誰が思う!正体バレた日にゃあ金返せコールの嵐だぜ…っと、それは置いといて元の世界に帰る方法だ。パルミットと呼ばれるものを全て集めれば俺の中のアダムとしての力が取り戻され、次元をも行き来することが可能だと言っていたな。そしてそれはこの世界を救うことにもつながる…か。出来過ぎの設定だぜ。それに、のせられている気もする。・・・しかし他に方法も思い当たらないしな〜、やるしかないか。そしてあの声。声の主は イヴ 俺は彼女を知っている気がする。あの声が持つ懐かしさ、愛おしさ。声を聞くたびにそれらの感情が刺激される。・・・会いたい。彼女がここに俺を呼んだのか?それとも・・・。彼女はこの世界にいるのか?存在しているのか?知りたいことが数え切れないほどある、・・・真実はどこにある?)

 少しは考えがまとまったのか表情にも決意が浮かんでいる、腹をくくったのだろう。

「それにしても腹減ったな〜かばんの中になんか残ってないかな?」

 腹をくくったのではなく腹を減らしたらしい、持ってきた鞄をゴソゴソと探し、中から少しの参考書とその倍以上の数の武器・・・モデルガンが出てきた。受験生ではなかったのか?

「お〜。そういやぁ今日はあいつらとサバイバルゲームの約束をしてたっけ、すっぽかしちまったなあ。」

 そう言うとその銃を構える。デザートイーグルと呼ばれるその銃は銀色に鈍い輝きを放っていた。趣味が嵩じて自作した特製の銃、その威力は薄い木の板ですらぶち破る。

「あいつら何してんだろうな〜俺を探してるかな〜まさか異世界にいるとは思いもしないだろうな〜。」

 寂しさを紛らわそうとしているのか独り言が口をついて出る。その声はどこか力が無い。
更に鞄を漁ると、英語の参考書が出てきた。少し動きを止めると、それを壁に立てかけた、そして右手に握っていた銃を構えた。引き金をゆっくり引く、 バスン と乾いた音と共に参考書に穴があいた。

「この世界から帰れなきゃこんなもの、意味がねぇ。俺にはやることがある。」

 全ての不安、疑問と共に参考書を打ち抜いた、固い固い決意の一撃だった。時計は10時を指していた。心は決まった、もう迷う事は無い。体の疲れを癒すためにベッドに入り眠りに就く、間もなく安らかで規則正しい寝息が聞こえてきた。




 夢。彼は夢を見た。それは過去の記憶、ばらばらに砕け散った失われた記憶…その記憶のパズルが、まるでビデオの巻き戻しのように修復され…再生された。

「イーリー、行ってくるよ。」

 逆光で顔は見えないが男が玄関口に立っている、声の様子からして年齢は20過ぎくらいだろうか。彼はこれから彼にしか出来ない仕事をしに行くのである。

「アダム様・・・。」

 恐らく イーリー と呼ばれる女性なのだろう、見送るその表情には悲しみの色が有り在りと浮かんでいる。まるで今生の別れかの様に。

「なに、少し次元の穴を修復してくるだけさ、この世界はまだまだ不安定だからね。」

 イーリーの不安を払拭するかのようにやさしく話しかける。

「・・・一つだけわがままを聞いてくださいますか。」

 その声は涙に震えている。

「なんだい、何でも聞こう。」

 アダムの声からは迷いが無い、そして溢れるやさしさが感じられる。

(行かないで下さい。)

 イーリーは心の底からそう願った。叶わぬ願いとも知っている。

「必ず戻って来てください。」

 心とは裏腹な言葉が口をついて出る。彼女は知っている、彼がこの上なく危険なところに行くことを、そして生きて帰ることが叶わないという事も。

「ああ、すぐに戻ってくるさ。・・・私が約束を破ったことが有るかい?」

「・・・有りません。」

 そう、一度たりとも無かった。

「そうだろう?私は嘘が嫌いだ、だから約束も守る。なぁに、2日もすれば帰ってくるさ、君には私の留守を預かっていて欲しい。」

 そう言ってアダムが玄関をくぐったときだった、イーリーが駆け出しアダムの背中にしがみつく。

「お、おい。どうしたんだい?」

「アダム様・・・。」

 二人の間にさまざまな感情が交錯する。

「イーリー・・・。」

 アダムは彼女の気持ちを知っている、振り返りイーリーを抱きしめる。

「大丈夫だ、今回はイヴ皇女も参加してくれる。だから安心してくれていい、たとえ幾年月が経とうとも必ず君の元に戻ってくるよ。・・・これを。」

 それは今日ブレアに見せてもらったものだった。・・・パルミット。

「これには私の力の一部を封印してある、イヴ皇女に手伝ってもらい創ったものだ。何かの折には使うと良いだろう。」

 イーリーの手にそれを握らせる。パルミットはほのかな温もりを有していた。イーリーは黙ってそれを受け取る・・・二人の視線が交差し、手が触れ合う。

「アダム様・・・愛しております。いつまでも、いつまでもお待ちしております。たとえ悠久の年月が流れようとも決して忘れは致しません。」

 それは精一杯の告白。

「・・・・・・・。」
 アダムはなにも言わない。痛いほど彼女の気持ちはわかっているのに、応えられない。

「・・・最後に名前を呼んでもらえますか?」

 もはや彼女の顔は涙でみたされている。アダムは返事のかわりにイーリーに口付けた。

「行ってくるよ・・・ブレア。」

 世界が混沌の海に支配され、時が止まる。・・・夢はそこで途切れた。

 ..........to be continued...........

パルミティア 第三章.〜決意の一撃〜

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