パルミティア 第五章.〜封印の聖獣〜

原作 アトレイド

第五章.〜封印の聖獣〜

「あら、どなたかしら?シャル、見てきてちょうだい。」

 言われてシャルが見に行った。少し経って、ずんぐりむっくりとした小男と一緒に戻ってくる。男は走ってきたらしく荒い息も整えず。

「ブレア様、大変です!村のはずれに奴が出現しました!お力を貸してください。」

 息も整えず一気にまくし立てる。反対にブレアは落ち着き払っている。いったん部屋から出ていき、水を持って戻ってくると小男に渡してやる。

「落ちついて下さい。そうですか・・・今回の封印はあまり長くもちませんでしたね。すぐに参ります。そこのソファに座ってお休みになって下さい。シャル、ツトム様、少し付き合って下さいね。」

 今までののんびりとした雰囲気とは違い、今のブレアには今までに無い意志の強さが感じられた。反論の余地も無かった。

「では、参りましょう。ホアさんはこちらでお休みになってから、いらして下さい。ツトム様、わたくしの体に触れて下さい。」

 言われるままに肩に手を伸ばす。

(ホアって言うのかあの男・・・)

 などとツトムが考えているうちに――

「では――タイニー・アクトレス。」

 ぼそりとブレアの声が聞こえた次の瞬間には、目に映る景色が室内から屋外へと変っていた。木造の家が何軒も並んでいる。この世界の村のようで、ここはその広場らしい。

「あれ?ここは…」

(すげー!!これが真言術なのか。転送術って奴だな。)

「さぁ、着きましたよ。急ぎましょう。そろそろ暴れているかもしれませんから。」

 そう言うとブレアが駆け出した。なんの事だかわからないがツトムも着いて行く。少しして他の家より少しばかり立派な家に入っていく。家の中には数人の男たちが何やら集まっていて、何やら会議をしている様だった。と、その中の一人、最も偉そうな老人がこちらに気づいて歩み寄ってくる。

「おお、ブレア様。封印がとけてしまいましたですのぉ。今回もお助け下さいですのぉ。」

「ええ、そのために参りましたの。出現地域はどこですか?すぐに参りましょう。」

「ちょつと待った!俺も話しに参加させてくれよ。」

 今まで話しに参加できずにいたツトムが、とうとう我慢できなかったのか話に割って入った。

「ん?こちらはどなた様ですかのぉ?ブレアさんのお付きの者ですかいのぉ?」

「あはは。ツトムあなた、お付きの者だって。」

 長老の言葉にシャルがうけている。ツトムは少しむっとした。

「シャル!いいえ長老。こちらはツトム様。わたくしの・・・フィアンセですの。」

 ズデーンと、大きな擬音をたててツトムとシャルが盛大に転ぶ。ブレアは赤らめた頬に手を当てて恥らっている。

「おお!そうでしたかのぉ、ブレア様も再び身を固めるのですかのぉ。いやはや、めでたいですのぉ。」

 長老だけが素直にその話を信じて疑わない。シャルはまだ床に突っ伏している。ツトムは頭を抱えていた。

「ま、冗談はさておき、私が今回呼ばれましたのは、300年前に封印したモンスターを再び封印するためですわ。」

一変してまじめになり笑顔が真剣な表情へと変化する。変わり身の早い…。ようやく気を取り直したのか、ツトムがたち上がる。

「そ、それで?そのモンスターはどこにいるのさ?」

「先程、この村から南西へ20キロ行った砂漠におりましたのぉ。」

「それなら早く退治に行こうぜ。俺も早く出発したいしさ。」

 どうやら多少の好奇心もある様で、早くそのモンスターを見たくて仕方ない様子だ。

「あんたねぇ、あのモンスターはそんなに簡単に倒すとか言えない相手なの!・・・見れば解ると思うけどね〜」

 ツトムの気楽な要望にあきれたのかシャルが話の腰を折る。

「まぁまぁ、では、まず様子見に参りましょうかねぇ〜村長さん、行ってまいりますわ。シャル、ツトム様、もう一度私にお捕まり下さいね。」

 言うなり返事もまたずに先ほどと同じ言葉をぶつぶつと紡ぎだす。ちょうどツトムとシャルがブレアに触れたとき真言は完成した。

「――タイニー・アクトレス。」

 一瞬の後に今度は目の前に砂漠が広がっていた。灼熱の太陽、気温、湿度、まさに砂漠と言える景色が眼下に映し出される。

「おー、らくちんらくちん。わざわざ歩かなくても良いもんなぁ〜・・・て、え?砂漠が眼下?え?と言う事は――?」

 ツトム達が出現したのは砂漠の地上10数メートルのところだった。もちろん重力に従い落ちるわけで・・・。

「嘘〜まじかよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」

「あら〜どうやら高さを間違えてしまいましたわね〜。」

 隣ではやたら落ちついた口調のブレアが一緒になって落ちている。地上まで後8メートル、7、6、――。

「タイニー・レビテイル!」

 今まで落ちながらうつむいていたシャルの口から真言が漏れ、途端に落下スピードが遅くなる。今や宙に浮いている状態である。どうやらうつむいていたわけではなく、真言を唱えていた様だ。

「おお!今度は浮いてる!!助かった〜。」
 ツトムはもはや半泣きの状態である。しかしそれでも不安なのか急いでシャルにしがみつく。

ムニ――。

「ちょ、ちょっと!どこ触ってんのよ。落とすわよ!」

 ツトムの手はなかなかおいしい所にしがみついていた。シャルの術への集中が途切れ――。

「のわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!あ〜〜〜〜あ?」

 術がきれたのは地上30センチ足らずのところだった。ぽふんと柔らかな感触の上着地する。

「まぁまぁ、助かりましたわねぇ。でも、シャル。60点ね。途中で集中といたらいけませんよ?幸い下が柔らかかったからよかったものを・・・。」

「そうだぞ!危ないじゃないか!幸い下が…柔らかい…地面?」

 気づいて地面を見ると、妙にでこぼことした黄色の地面の上にツトム達はいた。地面は例えるならば浮き袋のような弾力があり、何故か地平線が2〜3百メートル程先に見える。と、でこぼこのうち1つが突然裂けてそこから1つの 目 があらわれた。目はツトムの方をギラリと睨んでいる。ツトムの視線と目の視線が交差する。

「ね、ねぇ・・・ブレアさん。そのモンスターってさ・・・どういうやつなのかな?」

 視線は交差したまま、ブレアに聞く。

「そうですねぇ〜名前は ランドスケープ 外見は一言で言ってしまうと、千の眼を持った大きなミミズさんですわ。」

「そ、そう。大きなミミズなんだ・・・で、そいつの大きさはどの程度なの?」

 やはり視線を交差したまま再び問いかける。今視線を外すのはまずいとツトムのなかで何かが告げていた。

「え〜とぉ・・・およそ全長300メートルほどでしょうかぁ。」

 頬に人差し指を当てやはりのんびりと言う。彼女に足元は見えていないようだ。

「それってさぁ、色はこの地面みたいな感じかな?」

 ツトムの声が震えているのがはっきりとわかる。視線はやはり外さない。

「地面?まぁ、そうですねぇ。こんなかんじの色でぇ・・・え?」

―――ごごごごごごごご!

 ブレアが地面を見るのと同時に地震がおきる。今まで閉じていたでこぼこがいっせいに見開く!そこにはまさに無数と呼べる眼があった。

「うぎゃぁぁぁぁ!動いてる!動いてるって!」

「捕まって!離れるわよ。タイニー・レビテイル。」

 シャルの真言の意味にしたがって三人の体が宙に浮く。そのまま上昇を続け、その場から10メートルばかり浮き上がったところで それ は全貌をあらわした。
そこには全長300メートル、幅100メートル程の体長を持った巨大なミミズがその肢体を砂漠に横たわらせていた。 今やすべての目を見開き、その視線はすべてこちらを見据えている。

「こ、これを封印するんかい!」

 シャルの手に捕まりぶら下がっているツトムが絶叫交じりの声を出す。

「そのとおりですわ。まぁ、封印するとは言っても、もう一度地中深くまで埋めてしまって、眠っていただくだけなんですけれど。」

 こちらはブレア、何時の間にか真言を唱えたのかこちらは単独で宙に浮いている。大ミミズもとい、ランドスケープは視線をこちらに向けたままピクリともしない。
と――不意にその巨体の周りで砂柱がたちのぼる。砂柱はそのうちに砂煙となりツトムたちの視界を奪う。

「な!おい!仕掛けてくるぞ!」

ツトムがあいている左手で腰のガンホルダーから銃を引き抜く。銃口を砂煙にむけるが。

(ち!何処を狙えばいいんだよ。しかもあの大きさの相手にこんな物が通用するのか!?)

もうもうと立ち昇る煙に躊躇し、なかなか引き金が引けない。その間にもランドスケープは確実に砂煙の向こう側で蠢いているのが気配で分かった。

(こうなったら煙が晴れた瞬間に持ってる弾全部眼に当ててやる!どうせこういうタイプの弱点なんて眼に決まってらぁ。)

かなり勝手に決め付けて銃口を向ける。砂煙がだんだん晴れ――そこにはもはや先程の巨体は存在しなかった。砂漠に静けさが広がる。

「行っちゃったわね。」

「逃げた・・・のか?」

「そうですねぇ、私のことを覚えていて、逃げてしまわれたのかもしれませんねぇ。」

「・・・とりあえずどうしましょうか?ブレアさん。」

銃の構えをといてガンホルダーにしまい込む。シャルは術を制御して地面に降り始めた。

「そうですわねぇ一度村に戻って体勢を立て直しましょう。今日はもう現れないと思いますわ。」

言うなり同意も得ないで真言を紡ぎ、次の瞬間には再び村へと戻っていた。




帰還した一行は、事の次第を村長に伝えるために村長の家に向かった。

「おお!ブレア様いかがでしたかいのぉ。」

あいも変わらずのんきな口調で村長が出迎えてくれる。とりあえず水をもらい一息ついたところで対策を練ることにした。

「しっかし、対策なんか練る必要あんの?だって今までずーっとブレアさんが封印してきたんでしょう。今回もさくさくっと封印できるんでしょ?」

まず口を開いたのはツトムだった。先程はいきなりのことで驚いたが、水を飲んで落ち着いたのか軽口が叩ける余裕はできたようだ。

「そ、そうですわねぇ・・・今回も何とか・・・封印してみせますわ。」

そう返すブレアの口調にはいつもの張りがない事にツトムは気がついた。

「ま、いっそのことモンスターなんて倒しちゃえば良いんじゃないの?あんなのいつもいつも起きては封印してたらきりがないでしょ?」

その言葉にシャルはため息を吐き。

「あのねぇ、さっきも言ったでしょう。 あれ はそう簡単に倒してはいけないの!あんな風に見えても聖獣なんだから。」

「聖獣?なんだそりゃ?」

ツトムの質問にシャルではなくブレアが答える。

「聖獣というのはですねぇ――。」

――バタリ。

ブレアが立ち上がり説明をはじめたとたんに倒れる。あまりの突然の出来事に誰もが反応できなかった。沈黙。

「あの〜ブレアさん?」

恐る恐る近づき様子を見る。見た目気絶しているようだが・・・。

「ブレア様。寝てしまっておられるのぉ〜。どうやら魔力を使いきってしまわれたんじゃのぉ〜。」

その通りだった。ブレアはスヤスヤと寝息をたて眠り込んでいた。安らかな表情だ。

「寝てる〜?なんでやねん!?」

ツトムが思わず突っ込みをいれるが、ブレアに起きる気配はない。

「あら、本当に魔力が低下してるわ。どこでそんなに使ったのかしら・・・。」

シャルも横合いから覗き込んだ。

「ま、しょうがないわね。長老様、お部屋を一室お貸していただけますか。今日はこの辺で休息を取りたいと思います。」

「承知しましたのぉ。二階にお部屋を用意してありますのぉ。」

「さあ、ツトム。お母様を連れていってちょうだい。いやとは言わないわよねぇ?」

「へいへい、解かりましたよ。」

言われた通りにブレアを肩に担ごうとする。

「ん〜これじゃやりにくいな・・・そうだ、こうしよう。」

ツトムは結局 お姫様抱っこ でブレアを部屋に運ぶ事にした。意図的にではないにしろ、手が要所要所に触れる。

(軽いな・・・しかし・・・をを!?柔らけぇ〜くぅぅ!感動だ〜。は!?やばい!こんな事を考えていると!!)

視線をシャルに移す・・・がシャルからのリアクションはなかった。

「何やってんのよ!早く来なさいよ!」

(そ、そうか。俺は今パルミットを持っているんだっけ。助かった〜パルミットって便利だな〜。)

「わ、わかってるよ。今行くって。」

 案内されたのは2階の寝室だった。べつだんなんの変哲も無い部屋で、昨日ブレアがツトムに用意してくれた客室と大差は無かった。

(客室なんてどこでも一緒か。)

ベッドが2つ用意されていて、片方に眠っているブレアをおろす。

「なあ、お前らってさ、魔力っていうのを使いすぎると寝ちゃうもんなのか?」

 ブレアに布団をかけながら疑問を口にする。

「なに言ってるのよ。魔力は人の精神的な力なの、使いすぎると精神が衰弱して死んでしまう事だってあるんだから。」

「なに!?ブレアさんは大丈夫なのか?」

「あたりまえじゃない。お母様は一流の真言士よ。生命維持に関わる最低の魔力は残してあるわよ。」

「そうか〜よかった〜。ま、ブレアさんはこのまま起きそうにも無いし、部屋を変えて今後の対策でも考えるか。」

 言って部屋を出る。隣の部屋がツトムの部屋としてあてがわれていたので、移動した。

「それにしてもお母様いつのまにそんなに大量の魔力を消費したのかしら?」

「う〜ん。あれじゃないの?何回も転送術で飛びまわっていたからそれで。」

「違うわね、転送術は確かに魔力の消耗は激しいけど、お母様なら何百回使っても平然としているはずだし・・・ん?それよ!」

 そう言ってツトムの首を指差す。そこには2枚の認識票が存在していた。

「これ?ブレアさんが作ってくれたこれか?」

「そうよ。あのときはさらっと聞き流したけど、1つの物質を作るのには相当な量の魔力が必要だったはず。つまり・・・。」

「つまり?」

「あんたのせいね!」

 言うなりツトムの首を絞めにかかる。いわゆるチョークスリーパーが完成していた。

「うう。ぐるじいぃ〜、ばか〜やめろ〜。」

 ツトムの顔色がだんだんと青紫色に変色していく。細いシャルの腕がしっかりと頚動脈を圧迫している証拠だった。

「ふん。まあ良いわ。あんなを絞めたからってお母様が起きるわけじゃないし、お母様が目覚めないいじょう、他にあいつの封印の手段を考えなきゃ。」

 ツトムがある程度ぐったりしたのを見てからシャルが手を解く。

「げほっ!げほ・・・だったら絞めるなぁ!」

「うるさいわね!自業自得よ。それよりあんたも何か考えなさいよ。あの、聖獣くずれを封印する方法を。」

(自業自得って・・・俺、なにもしてねえだろが!)

「あ、ああ。そうだな、対策を考えなきゃな。ところでさっき中断した聖獣の説明をしてくれないか。相手のことが解らないと対策も何も無いからな。」

「いいわ、よく聴きなさいよ。聖獣はこの世界の原初から存在していると言われているわ。その力は全ての自然現象を司っている事から護界獣とも呼ばれ、その知識・魔力はあらゆる生物を凌駕し、怒れる聖獣はそのままこの世界の怒りでもあるのよ。」

「そんなエライ奴がなんでまた暴れてるんだよ。」

「わからないわ。数千万年前から暴れているって話しだもの。」

「そうか・・・弱点とか無いのか?倒す倒さないにしろ、動きを止められるかもしれないからな。とにかく今はブレアさんが目覚めるまで時間を稼がないといけないだろ?」

「そうね〜聖獣ともあろうあいつに弱点なんてあるのかしら。」

 ふ〜と、ため息を漏らす。そのときドアがノックされた。


 ..........to be continued...........

パルミティア 第五章.〜封印の聖獣〜

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