パルミティア 第七章.〜理力の覚醒〜

原作 アトレイド

第七章.〜理力の覚醒〜

「う、ここはどこだ?」

 周囲は闇に包まれており、何も見えず何も聞こえない。

「え〜と、確かあの時ランドスケープが寝返りを起こして、俺は必死に走って・・・もしかしてここは死の世界か!?」

 慌てて辺りを見まわすが、返事をする者など誰もいない。そのうちに水平線のように伸びる灰色の闇を見つけた。

「なんだ?あそこだけ明るいな。」

 無意識に光を求め足が進む。やがて、光の中に飛び出した。

「っと。なんでえ、別に明るくないじゃん。ここは、さっきいた砂漠だよな?」

 先ほどまでと変わらない砂漠の光景が眼前に広がっている。違うのは先ほどまで吹いていた風が止んでいる事。何気なく辺りを見まわすとそんなに遠くないところにシャルが浮いているのを発見した。

「お!シャルだ。なんだあいつ、変な顔のまま呆けやがって。後ろに何かあるの・・・。」

 言い終わらないうちに後ろを振り向くと、巨大な壁が今にも倒れそうな傾斜で止まっていた。言うまでも無くランドスケープである。

「うお!?」

 慌てて走り出すが、ランドスケープがこれ以上倒れこんでくる気配は無い。安心しつつ危険な範囲から脱出すると、まだ呆けているシャルの方に向かう。

「お〜い。なんか助かったみたいだぞ。あいつはこれ以上動く気配もないし、いいかげん村に帰ろうぜ。」

 だが、ツトムの呼びかけにシャルは何の反応も示さない。まるで、固まってしまったかのように表情を変えることもしない。

「おい!いつまで呆けてんだよ。帰るぞって言ってんだろうが。」

 肩に手を掛け揺さぶってみるが、反応は無い。まるで凍りついてしまったかのように。
後ろに回って脅かしたりもするが無視される。

(これはどういう事だ?まるで全てが止まっているみたいな・・・止まってる・・・止まって・・・。)

「もしかして!?」

 先ほどまで自分が一心に思っていた事を重い出す。全力で、思っていた事。願っていた事。即ち 止まれ と。

「もしかして、俺の力か!?俺がさっき止まれって言ったからか?俺ってやっぱりアダムなのか!?」

 ツトムの問いに答える者は誰もいない。一面の砂漠はその姿を、ますます死の世界を感じさせるものになっていた。音も無く、風も無く、変化も無く・・・。

「で、この状態はいつまでキープされるんだ?」

 誰もその問いには答えない。答えられない。心の中である感情が湧きあがる――恐怖。

(このまま、この状態が続いたら俺はこの何も動かない世界に一人ぼっちか?冗談じゃねぇぞ!?考えろ考えろ!さっきの状況を思い出せ〜。)

 頭を抱えさっきの状況を思い出そうとする…が、あのときの事は無我夢中で何も憶えていなかった。全身の毛穴から冷や汗が吹き出す。

(何やってんねん!おんどれわぁ!)

「どわあ!?だ、誰だ?」

 不意の怒鳴り声に周囲を見まわすが辺りに人はいない。シャルも相変わらず固まったままだ。

(このぼけぇ!いつまで時を止めてんのや!はよ解除せんと、おんどれの理力全部食いつぶして衰弱死してしまうど!)

「どわ〜幻聴が聞こえる〜どうなってんだ!?」

 ツトムはしつこく声の主を探すが誰も何も見当たらない。

(どあほぅ!どこ探しとんのじゃ。ここじゃぁ!おんどれの腰のおるやんけ。)

「へ?腰って・・・。」

 言われて自分の腰を見てみる――が、そこには銃と短剣状態の白銀の剣だけ。

(白銀の剣!?こいつがしゃべってんのか!)

(ぼけぇ。誰がこいつじゃ!わしかて名前があるんやで。わしはなぁ・・・やっぱり教えたらん。思い出せぇ、ぼけぇ。)

「な、なんだよ!偉そうにしやがって。たかだか剣の分際でボケボケ言うんじゃねえ!
溶鉱炉にいれて溶かしちまうぞ!」

(うっさいわ、ぼけぇ!わしは、しゃべってなんぞおらんわ!お前の心に直で話掛けとんのや!それよかさっさと時間の流れを戻さんかい!おんどれが疲れたら、わしかて疲れるんやからな!)

「どあほう!出来たら苦労しねえよ!やり方を教えろ。」

(な、なんやと!?おんどれ、時間制御もできんのかい!)

「できねえよ!教えろ!」

 はたから見ると間抜けである。ツトムは手に持った短剣と言い争っているのだから。

(はぁ〜しゃあないな〜まず集中せいや。わしの先っぽを見つめいや!)

「こ、こうか?」

 両手で短剣を構えその切っ先を一心に見つめる。

(そうや、そんで時の流れを感じるんや。おんどれは今、川のように流れていたはずの時を即ち時流を堰き止めてるんや。おのれは堤防や、開ければ時は流れ出すし、絞めれば時はうごきだす。イメージせぇ。)

 言われた通りに瞼を閉じ、思い浮かべる。川の流れ、堤防、そして堰き止めている水門。

(そうや、そして念じるんや。開け!時よ動き出せとな。)

(水門よ・・・開け!)

ッドッシーーン!!!

一瞬の沈黙の後、大地を震わせる轟音が鳴り響く。目を開くと支えを失ったかのように、ランドスケープが寝返りを完了していた。

(お!戻ったようだな。やれやれ・・・。)

「・・・く!」

 地響きにも負けないような大きな声が鼓膜に届く。シャルの声だった。

「嘘。そんな、私をかばって?ツトム!ツトム!返事しなさいよ!」

(ははぁん。さては俺がまだあの辺にいると思ってやがんな。くくっ!ちょっとからかってやるか。)

 ツトムは足音を消しながら後ろに下がる。シャルは相変わらずランドスケープに向かって叫びつづけている。背後のツトムのは気づいていない。

「ツトム!ツトム!こらぁ!出てきなさいよ!あんたがいなかったら私、私・・・。」

 しばらく叫んだ後、シャルはとうとう泣き出してしまった。

(げ!?泣き出しちゃったよ、おい…)

 そのうちに罪悪感にさいなまれたのかシャルの方に向かって歩き出す。少しでも早くその悲しみから開放してやりたいと思った。サク、サク、という足音を聞いてシャルが振り向く。

「ツ・・・トム?あんた何で?」

 目にはまだ涙が溜まっていた。良心がチクチクと痛む。

「よ、よう。なんとか間に合ったぜ。死ぬかと思ったけどな。」

 シャルは肩を振るわせ、まるで信じられないものを見たかのように動かない。ランドスケープの下敷きになったと思っていたはずのツトムが、自分の背後から現れたのだから当然と言えば当然だが。

「あれ〜?なんで涙なんかながしてるのかな〜もしかして俺のために泣いてくれてたのかな〜?」

 耐えられない雰囲気に軽口を叩く。シャルは無言のまま砂漠に降り立つとそのままツトムに近寄り。

「ツトムの…ばかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 開口と同時に平手が飛んでくる。それは見事にツトムの頬を打ち据えた。あまりの威力に倒れこむと、シャルが馬乗りにのしかかってくる。

「いってえな!なにすん!?」

 言い返す言葉が途中で遮られる。シャルは再び大粒の涙を流していた。

「ばか、ばか、ばかぁ!あんたが死んだら私・・・私。」

 胸倉を掴み上げ、もう一撃飛んで来そうな勢いだ。

「シャル、お前・・・。」

「お母様にどんなお仕置きを受けるかわからないじゃないの!?」

 ドテ!

その言葉を聞いた瞬間に全身の力が抜ける。ツトムの期待は空振りに終わった。

(結局それかよ。)

 そんな事を思いつつ、ツトムの意識はフェードアウトしていった。

「やだ!ツトム!?ツトム?しっかりしてよツト…」




 直線的な日差しが照りつける。木々からは蝉の声が絶え間無く響き渡り、額に浮かんだ汗の玉が瞼に引っかかる。ここは某県にある奥深い山中。
務のチームの生き残りは――いや、務以外はリタイヤしてしまったのだから、すでにチームとは呼べない。今回の対戦相手は手練だった。わざわざ本場アメリカから参加してきているとか言っていたか、要するに外人部隊だ。かなり強い。

(1、2、3…4人か。囲まれたな。)

目を閉じて周囲の気配を探ると、包囲網が徐々に狭まってくるのを感じる。

(ったくよぉ、なんだって現役の警官やらSAWTの隊員なんかがこんな大会に参加してるんだよ。)

「はぁ〜、もう、このままギブアップしちゃおうかな〜。」

――ガサッ

バーーン!!

 背後で物音がするのと同時にトリガーを引く。後ろは見ていない。随分と前から過剰に接近してきている相手には気がついていた。功を焦ったのだろうか殺気が消せておらず、まるわかりだった。だからこそ、隙を見せて誘い出したのだ。

「アウチ!」

(残り3人。)

心臓に当たる個所から真っ赤なペンキが垂れている。もちろん使っているのはペイント弾だが、至近距離から急所を撃ち抜かれて痛くない者はいないだろう。不幸なその相手はぜぇぜぇ言いながら荒い呼吸をしていた。

「お!悪い悪い。あんまり簡単に出てきてくれたから思わず急所を撃っちゃったよ。
痛かっただろ?早く、発煙筒で救護班を呼べよな。」

 言い捨ててその場を立ち去ろうとする、が、振りかえって男の帽子をひょいと取る。

「わりぃな、借りて行くぜ。あ、あと銃も貸してくれよ。もう弾の残りが心もとなくてさ。後で返しに行くからな。」

「ま、まテ。おまエのチームはもう壊滅状態だゾ。どうしてギヴアップしない?」

 男は変な発音ではあったが日本語で問い掛けてきた。

再び歩き出した足を止める。なんと言ったらいいものか、頭をかきながら考える。他の連中は今の銃声に気がついてもうやってくるころだ。早いところどこかに身を隠さなければいけない。

「・・・ここで引いたら格好わりぃだろ?逆にこの状況で勝てたら格好いいじゃん?それと、この状況でも勝たないと仲間がウルサイんでね。あばよ!」

 言い捨てて振り向かずに駆け出した。連中はもうそばまで近づいている。残り3メートルというところか。途中で目線の高さの枝にさきほどの帽子を引っ掛ける。腰のポケットからテグスを取りだし、同じく奪い取った銃に細工をする。帽子を引っ掛けた木の迎い側に設置してその場を離れる。敵は仲間がやられて用心しているのか、その歩みは先程よりも遅くなっていた。トリガーに引っ掛けてあるテグスの端っこを持って、3メートル離れた木に登る。

(さあて、素直に引っかかってくれよぉ。)

大きく息を吸いこみ、深呼吸を1つ。そして気配を努めて消すようにした。少し待っていると敵が現れた。その数は2名。

(・・・1人さっきの奴のところに残ったのか?まあ良い、今は目の前の敵に集中しよう。)
思った通りに、目の前の帽子に気がついたのか、1人が用心深く帽子に近づく。

(あと一歩、半歩・・・今だ!)

 グイっとテグスを引くと共に銃声が響く。ちょうど帽子を取った瞬間に男の胸に命中した。もう1人の男が慌ててカバーに入る。発砲された地点を探すが、もちろんそんな所に居てやるほど易しくは無い。照準を正しくポイントし、トリガーを引くと3人目もあっけなく落ちた。

(ふ〜もう1人・・か。)

 安堵のため息をついて木から降りる。

――ガチャ

後頭部に冷たい感触。振り向く余裕すらなく、背後に気配が現れた。

「ナイスボーイ!我々あいテにたいしたものだよ。君に敬意を表してギブアップをお勧めするガ?」

 野太い妙ななまりの日本語で話しかけられる。銃をつきつけている本人だろうが。

「ん〜どうしようかな〜」

 冷や汗混じりに両手を上げる。お手上げと言うのはこういう状態かもしれない。

「正しい判断ダ。ついでにガンを捨ててくれナイカ。君はデンジャラスだからね。」

 さらに力をこめて銃が押しつけられる。反転して腕を捕ろうにも一部の隙も無い。

「ああ・・・銃を、下ろせば良いんだな。」

 手を銃から離す、重力に従い狙っていた物の上に落下する。それは緑色に塗られた極細のテザーだった。最後の最後、できれば使いたくなかった手段でもある。ゲーム開始直後からセッティングしてあったものだ。落ちてゆく銃を見ながら満面の笑みを浮かべる男の顔が、落下地点にあるテザーに気がつき蒼白になる。

「のぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォ!!!」

 …そして、男の迷彩服は真っ赤に染めあがった。務自体は男を盾にしていたため、多少の汚れで済んでいた。これなら審判も見逃してくれる範囲だろう。
対人地雷クレイモア。トラップに引っかかった相手に数百発単位の弾丸をおみまいする凶悪な兵器である。

「あ〜あ・・・白目剥いて気絶してらぁ。まあ、至近距離だったしな。しっかしこりゃ、あとで皆に怒られるな。使っちゃったからなぁ。高いんだよな・・・クレイモア。はぁ。」

 数百発の弾丸を要するトラップである。弾数に比例して費用がかかるのは言うまでも無い。ペイント弾も安くは無いのだ。




 大会本部テント脇の川で水浴びをする。日もだいぶ傾いたが、それでも昼間の日光を蓄えた大地は陽炎を生むほどに熱い。輻射熱が体を覆う。火照った体に水はよく浸透してくれた。ついでに、迷彩服も洗ってやる。

「よお、流石だな!あの状況でよくも勝ったもんだ。伊達にセンチメーターマスター アダム を名乗ってないよな。」

 チームメイトの典幸が近寄り隣の岩場に腰掛ける。

「ああ、まあ油断してくれてたからな。らくしょー、ラクショー。」

「ほほう。それが、クレイモアを発動させた奴のいう事かね、ん?」

ぐぁし!と、チョークスリーパーをかけてきた。けっこうポイントが決まっていて苦しい。

「や、やめれ〜暑苦しいんだよ!だいたい、賞金でまかなえるんだからいいだろ!だいたい、開始30分でオチたくせに!」

 背負い投げの要領で水面に投げつける。大きな水音をあげて、典幸の体が宙を舞った。

「ったく、疲れてるんだから邪魔するんじゃねぇよ。おちおち洗濯もできやしねぇ。俺はちょっと上流の方に行って、水を汲んでくるわ。」

「いてててて。」

「そうだ、開始直後にオチた奴らは夜間訓練だからな。伝えとけよ。…お前もだぞ。」

「げ〜」

 言い捨てた言葉に典幸はがっくりとうなだれた。




 上流は蝉の鳴き声も聞こえないほど静寂をたたえていた。穏やかな水流の音だけが耳に残る。務は夕飯に使う水を汲みに来たのだ。とてもじゃないが、さっきの位置の水は使う気がしない。3リットルのポリタンクの蓋を開け、汲むためにしゃがみこむ。

「こんばんは。」

 不意に背後で声が聞こえた。さっきまでまるで人の気配なんか無かったはずなのだが・・・。務が気配を読み間違える事はめったに無い。顔を上げて振り向く。そこには、淡いブルーのワンピースを着た、セミロングの女性が立っていた。穏やかな瞳が印象的な美人に属するタイプだ。何故か靴を履いていなかった。細く白い素足をさらしている。女性の周りには淡い光が瞬いていた。夕闇の中で幻想的な一枚絵がそこにあった。

(ホタル?それより、いつからいたんだ?)

「こんばんは。地元の人?」

 とりあえず挨拶を返す。今日の大会は山を1つ借りきって行われているものだ。関係者以外は危険なために近づかない事になっている。

「・・・あなたは、ここで何をしているのですか?」

 少し間を置いてから言葉が返ってくる。こちらが先に質問したはずなのだが…。

「何って、水汲みだけど?夕食に使わなきゃいけないもんでね。俺のダチは皆グロッキー状態だから――。」

「早く帰らなくても良いのですか?いつまでここにいるつもりですか?」

 務が言い終わる前に口を挟む。女性の目はここに居ながらにして遠くを見つめているようにも思えた。儚い、おぼろげなその存在に務の背中がゾクリとする。

「あ、明日には帰るよ。大会は明日で終りだからね。それより君は――」

「あなたは、御自分が帰るべき場所をご存知ですか、あなたの存在意義をご存知ですか?」

 再び口を挟まれる。いいかげん務も腹が立ってきた。

(なんなんだよ!人の話を聞けよな。)

 無視を決め込んで水を汲む。

「あなたの帰りを、そして私を迎えにいらしてくれる日をお待ちしています。アダム様。」

「なっ!?」

 務は女性に対し名乗った覚えは無かった。もし名乗ったとしても、名前を名乗るだろう。
今までにコードネームで自己紹介をした事は無い。そして振り向いた時に女性はそこには居なかった。

「お〜い、務〜明日の決勝の相手が決まったぞ!」

 遠くから典幸の声が聞こえる。近づいてくるランタンは典幸の物だろう。夕日は何時の間にか沈んでしまったらしい。蝉の声が再び大合唱をはじめていた。

「今行く。それよりも飯の準備をしようぜ。腹減ったよ。」

(そっか、俺のファンだな…)

 その夜、務はそんな事を考え、ニヤニヤしながら眠りについた。



 ..........to be continued...........

パルミティア 第七章.〜理力の覚醒〜

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