パルミティア 第九章.〜ノルーニアの城〜

原作 アトレイド

第九章.〜ノルーニアの城〜

 ノルーニア大陸。神の皇女たるリナ・ラナが統治しているこの大陸は、アダムがいない今でも時間の運行は滞り無く続き、昼夜が訪れている。
そして、ここは大陸最大の街ホリィ。二人の皇女の居城がある街。ホリィは外壁で町を囲んだ作りになっており、街に入るためには簡単な身分チェックも必要とされ、治安の良さが伺える。
外壁を一歩中に入ると、鉄筋コンクリート――ではなく、やはり木やレンガでできた簡素な建物が整然と並んでいる。街の中央にはこの街の、いや大陸の象徴でもあるノルーニア城の姿が街のどこからでも確認できた。
大通りでは、お昼時という事もあるだろうが出店が賑わい、溢れる人で活気付いている。アクセサリや洋服を売っていたり、野菜や果物を売っていたり、また訪れる人々も多種多様だ。そんな雑踏の中、ツトムとシャルは立ち往生して…

「あ〜も〜冗談じゃないわよね!どうしてこんな事になるのよ!」

「言ったってしょうがねぇだろ?無くしたもんは無くしちまったんだから…。」

 …喧嘩していた。

「あれだけあれば、余裕で一週間は宿屋に泊まれたのよ!どこで無くしたのか思い出しなさいよ!一昨日の集落に泊まった時はあったじゃない。」

「そんなもん解るか!だいたいなぁ、皇女様のところに行くんだろう?泊めてもらえば良いじゃないか。」

 どうやら、路銀を落としてしまったらしく、ツトムが一方的に責められているようだ。
話しの方向を逸らそうと思いついた事を口に出すが。

「はぁ〜じゃ、聞くけど・・・皇女様に謁見するのにどれくらい時間がかかるか解ってんの?私だって会うのは初めてなんですからね。それまでの間野宿なんて嫌よ!せっかく街に着いたっていうのに…お母様、シャルは今最大のピンチに陥っておりますぅ〜。」

 両手を合わせ、空に祈る…この場合はブレアに祈っているのだろうが・・・あからさまな嫌味に、ツトムの頬に一筋の汗が流れた。そう、ブレアは事後処理のためと、魔力回復のために村に残っていた。ツトムの力が覚醒したという事で付いて行く事にしたのだが、先ほどの理由で今はここに居ない。ブレアは数日遅れで追いつく予定になっている。ツトム達は先行し、1週間程かかってようやく街についたところだった。

「まあ、とにかく城に行ってみよう。パルミットの情報が欲しいし、何よりブレアさんの紹介なら部屋にありつけるかもしれないしな。な?・・・ブ。」

  −レアさんに言うぞ と続けようとしたのだが。

「そうね!ここで愚痴を言っても始まらないわね、行きましょうか。お城はこっちみたいね。行くわよ!」

 悟られたのか、あっさりかわしてスタスタ歩き出した。

(やれやれ、ブレアさん、早く来てくれないかなぁ〜。)

 溜息を1つつき、後を追うのだった。




 ノルーニア城は白を基調としたレンガ造りの城である。高さは50メートルほどだろうか。屋根の色は全て青に統一され、白と青のコントラストが訪れる者の心を和ませる。
窓は全てステンドグラスになっており、教会の神聖なイメージも彷彿とさせた。観光名所としても有名なところだ。

(お城か。ま、こんなもんなんだろうな。)

 城門をくぐろうとすると門番に呼びとめられた。身分を証明しなければこれ以上先には入れないらしい。シャルが手紙(ブレアに書いてもらった紹介状)を見せると、何事も無く受付へと案内された。ブレアはお城に顔が効くようだ。

「こんにちは。お名前を伺ってもよろしいですか?」

 受け付け嬢は緑のローブを着た緑髪の美人だった。もっとも、本来の種族は知る由も無いが。こちらもシャルが手紙を見せ名前を告げる。

「そうですか、謁見のお取次ぎですね?しかし・・・。」

 受付嬢は顔を曇らせ俯いてしまった。

「なにか、御都合が悪いのですか?」

「それが・・・ここだけの話しなのですが、現在リナ様はお城にいらっしゃらないのです。ラナ様だけが政ツトムを行っており、謁見にはしばらくの時間がかかってしまうのですが。」

「いないって、どういうこと?」

 当たり前といえば当たり前の質問に、受け付け嬢はバツが悪そうに答えた。

「その、リナ様は城下が見たいと言って飛び出してしまわれて・・・。いつ、お戻りになるか解らないのです。その分ラナ様の政ツトムが増えてしまって・・・ああ、お可哀想に。」

「・・・なかなか、おしとやかな皇女様だな。じゃじゃ馬なところなんかシャルと、うぐ!?」

 シャルが足を踏みつけ黙らせる。余計な事を言って周囲に白い目で見られるのはごめんである。

「そうですか、ラナ様だけに謁見する事はできないのですか?」

「申し訳ありませんが、それでも2週間先になってしまいます。よろしければリナ様がお戻り次第ご連絡を致しますが、連絡先などお教え願えますか?」

 連絡先・・・この場合泊まっている宿屋を指すのだが、お城の部屋を宛にしていた二人にそんなものは当然無かった。

「宿屋・・・ですか。いえ、街について真っ先にこちらを尋ねましたので。」

「そうそう、あわよくば部屋を・・・はぐぅ!?」

 今度は肘を鳩尾にくらい、たたらを踏む。

「一旦、宿を決めてから出なおしてきますね。」

 そう言うと、受付嬢の返事も聞かず、苦悶の表情を浮かべているツトムを引っ張り城を後にした。




場所を代わって、現在は街の中央広場。噴水があり、子供達がその周囲をはしゃぎまわっている。

「お前なぁ〜もうちょっと交渉すれば部屋くらい貸してもらえたかもしれないだろ?」

 お腹をさすり、恨めしげな目でシャルを見やる。

「馬鹿ね。そんな恥ずかしいマネできるわけ無いじゃない!それに、宿はお母様に指定されているのよ。合流しやすい様にって。」

「だけどよぉ〜実際の話し宿代は無いだろう?どうするんだよ。」

「誰のせいでこんな目に遭ってると思ってんの!」

 首を絞めるシャルの目には、殺意があった。

「わかった!俺が悪い、何とかする。だからはなじでぐでぇ〜。」

「どうするって言うのよ?」

「さっき良い物を拾ったんだ。これを見ろよ。」

 ようやく手を離し、ツトムに渡された紙切れを手にする。ノルーニア武術大会と書かれたその広告には 参加登録締め切り間近! だの、 高額賞金 といった文字が踊っている。

「あんた、もしかしてこれに参加するっての?あんたじゃ無理よ。怪我するだけね。」

 呆れた顔、鼻で笑うシャルだが。

「いや、参加するのはシャルだろ。ほら、俺ってば何の力も無い・・・。」

「羊を偽る炎の聖獣、我は汝の真名を知る者なり・・・。」

「嘘です!俺が出ます!ええもぉ、勝って賞金を貰ってきますんで!」

 真言を唱え始めたシャルを慌てて制止する。シャルの術を幾度となく体験したツトムはもう、懲り懲りだった。

「ふん!最初っからそれくらい素直なら良いのよ!ほら、さっさと行くんだからね。」

「はいよぉ〜。」

(はぁ〜、疲れるな。)




「じゃ、私は観戦してるからね。絶対の賞金貰ってきなさいよね!」

 手に持ったパンフレットをひらひらさせながら、シャルは観客席に上がってしまった。
ここは選手の登録受付である。周囲には4〜50名の人が集まっており、熱気に溢れている。かなりできる者から駆け出しまで、この武術大会は自分の力を試す絶好の機会という事で毎年賑わっている。

「え〜と、参加希望の方ですよね?お名前と種族をお願いします。」

「あ、はい。名前はツトム。種族は――。」

(まいったな、人間だなんて言えないしな。そうだな・・・。)

「――フェルメス・ドラゴン。」

 とりあえずシャルの種族を名乗らせてもらう事にする。シャルの外見は完全に人間だし、ツトムは本物の人間なので区別はつかないだろうとふんでの事だった。しかし――。

「まあ、噂には聞いていましたけど本当に存在していたんですね。そのポリモリフの錬度といい。魔力の隠しかたといい・・・一流ですね!では、あなたはSランクに出場して下さい。はい、このバッジのナンバーでお呼び致しますので。」

 と、一方的に言うと、反論の余地泣く他の選手に向かってしまった。勘違いしている。紛れも無く勘違いしている。ツトムは魔力を隠してるわけではなく、無いのである。ポリモリフの錬度が高いのではなく、元から人間なのだ。しかし、今更文句を言うわけにもいかず・・・。

(Sランクって・・・俺ここから生きて出られんのかな?)

と、溜息をつくばかりであった。




 選手達の控え室でツトムは作業に没頭していた。例の米軍倉庫から持ち出した銃の調整をしているところである。武術大会において、武器及び真言の制限が無いのが唯一の勝機だった。銃の存在を知っている参加者はいないだろうし、威力に関しても信頼が置ける。
しかし命の保証もしてくれない。一歩間違えば人生の幕を引くというのにツトムはうきうきしていた。なぜなら――。

(ん〜と、バランスは1度、いや2度ずれているか。あとは大丈夫みたいだな。さすが米軍!手入れを怠ってないねぇ〜。)

 ――公然と本物の銃が撃てるからのようだ。

嬉々として、バラしては組み直し今度は別の銃にとりかかる、3丁目をちょうどバラし終えたところで、フードを目深に被った男が近寄ってきた。

「聞きたい事がある。」

 声からするに20代いかないくらいだろうか。ぶっきらぼうに呼びかけるが、ツトムは何の返事も返さない。黙々と作業を続けている。

「おい!聞こえているのか、返事をしろ!」

 とうとう、我慢ができなくなったのか肩に手をかけ揺さぶった――瞬間!

カチャ!

フードを被った男の額に冷たい感触が押しつけられる。いったいどこから取り出したか、いつ取り出したのか解らない程の速さで、銃を男の額にポイントする。条件反射でやってしまった事なのだが。しかし、普通なら怯えて身を引くのだろうがそこは無知な相手。

「何のマネだ?」

 と言い、事も無げにそれを手で払いのけた。

(ああ、そうか。銃の怖さが解らないんだよな。無駄な事をしたな。しかし、俺もぴりぴりしてるのかな?)

「悪い。作業に夢中になってたんだ。なんか用なのか?」

「用があるから呼んだんだ。聞きたい事がある。」

「なんだ?手短にしてくれ。今忙しい。」

 言いながらも手を休める事は無い。3丁目の調整も終わり、4丁目に取りかかる。
いったい、何丁用意しているのだろうか?

「貴様がフェルメス・ドラゴンというのは本当か?」

「だったら、どうした。」

 適当に受け流した答えに、男の視線が殺気を帯びる。

「貴様は・・・他の仲間を知ってるのか、お前の他に何人居る?」

 何と答えれば?と、言葉に詰まったが嘘を言ってもしょうがないので、正直に答える事にする。

「知ってるよ。他には二人だけな。」

 要するに、ブレアとシャルの事である。その返事に男はあからさまに反応した。

「デュシャルムと、ブレア様の事か?」

(!?)

 ツトムの反応を肯定と受け取ったのか、男は

「なら、俺はお前を殺す!」

 と、一方的に宣言すると立ち去ってしまった。

(なんなんだ・・・?)

 カシャ!

と、ちょうど4丁目の銃が完成した。



 ..........to be continued...........

パルミティア 第九章.〜ノルーニアの城〜

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