パルミティア 第十三章.〜死闘の決勝戦・前々編〜

原作 アトレイド

第十三章.〜死闘の決勝戦・前々編〜

 闘技場は熱気に包まれていた。誰も彼もがこれから行われる、決勝戦を、期待に胸を膨らませ待ち望んでいる。周囲とは反対に、彼女だけが沈んだ面持ちでこれから起こることを考えていた。シャルである。

(はぁ。こんなにたくさんの人が期待しているのに、あのバカは棄権するのよね。きっと観客は皆ブーイングの嵐よね。巻き込まれないうちに行こうかしら?)

 ますます居たたまれない気分になり頭を抱える。

(だいたい、根性からして腐ってるわよね。男なら一度くらい死んできなさいよ。よっぽどのことが無い限り、医術班が跡形も無く治してくれるんだから。それなのに命が惜しいだなんて、相手だって本気で殺しにかかるわけ無いじゃないの。あのバカ、アホ、最低男。 だいたい、ここで棄権したら今夜の宿はどうするつもりなのよ。まあ、私の分は確保してるから良いけど。)

 ぶつぶつと独り言、いや、呪詛の声を呟く。それと共に高まっているダークなオーラに周囲の観客が一人、また一人と傍から離れていることに彼女は気づかない。そんなシャルに近づく者がいた。隣に腰をおろし、話し掛けてくる。

「こんにちは。どうしいたしました?浮かない顔をなさって」

 目線だけそちらを見やる。話し掛けてきたのは、見覚えの有る相手だった。名前は忘れてしまっていたが。

「あ、あなた確かツトムの2回戦の相手・・・でしたよね?」

「ええ、私はミランダ=アネット。普段はレイルスの集落に住んでいますの。あなたはツトム様のお連れ様ですよね?」

 レイルスとはホリィの南西に位置する実り豊かな森の事である。エルフ族のみならず、ドワーフやコボルト達が仲良く暮らしている。あまりの平和さに、聖獣に見守られた森であるという噂も耐えない。 ミランダが丁寧に自己紹介したので、シャルもフルネームで返す事にした。

「私はイーリー・ヴァン・デュシャルム。シャルって呼んで。それから、あの軟弱者とは縁を切ったからもう関係ないわ。」

「まあ!?いったいどうなさったのです?」

「あのバカ。決勝を棄権するって言ったの。決勝の相手デュードっていう奴が怖いらしいわ。死にたくないって尻尾巻いて逃げるつもりなのよ。」

「それは・・・でも仕方のない事かもしれませんね。名誉は生きていればいつでも手に入りますもの。強敵から逃げる勇気も、時には必要だと思いますけれど。」

「だからって・・・。」

 正論を言われてシャルが不貞腐れる。反論を試みようとしたがミランダは言葉を続けた。

「あなたは、名誉のために死ぬ事ができるのですか?自分ができない事を他人に押し付けるのはよくないと思われますが。」

 その通りである。シャルだってできない事は注文しない。だがツトムにはできるはずだ。彼は普通の人ではないのだから。アダムの力を持つ者なのだから。心のどこかで期待しているからこそ、その期待を裏切られた事に腹が立つ。

「だって、ツトムは勝てるはずだもの・・・なのに、戦いもしないで逃げようとするなんてズルイじゃない。こんなにたくさんの人が応援してくれるのに、それを裏切るような事。許せるわけ無いじゃない!!」

 力いっぱい握り拳を震わせてシャルが言う。その様子を見てミランダは微笑を浮かべた。

「シャル様はツトム様の事を信じているのですね。そのようなパートナーがいらっしゃるなんて、羨ましいですわ。」

「そ、そんなわけ無いでしょ!何で私があんな奴を信じてる事になるのよ。」

 慌てて反論したその顔は真っ赤で、明らかに図星なのだがミランダはさらに突っ込む。

「では、どうしてお帰りにならないのです?絶縁したのならば、ここに残っている事も無いように思われますが」

「そ、それは…。」

 ワァァァアアアアアアアア!!!

突如、歓声が沸き立ち。熱気が跳ね上がった。観客の視線をなぞっていくと、向かい側の通用口にデュードの姿を確認できた。悠然と舞台に向かって歩き出す。

「時間のようですわね。ツトム様は、まだお見えにならないのでしょうか。」

「来るわけ無いじゃない。今頃どっかに逃亡してるわよ」

(そうよ。あのバカが来るわけ…ないんだから!)

 ォォォォォォオオオオオオオ!!!

デュードの入場よりも一際大きな歓声があがる。思わず通用口を見やると、果たしてそこに現れたのは野戦服に身を包んだツトムの姿だった。歓声に手を振って応えることもそこそこに、キョロキョロと辺りを見回し、誰かを探し始めた。恐らくはシャルを探しているのだろう。

「現れたじゃありませんか。良かったですわね。」

「ウソ・・・。」

 呆然とその光景を見ているシャルに気付くとツトムは大きな声を張り上げた。

「シャル、臆病者なんて二度と言わせねぇからな。見てろよ!」

「バァカ!負けたら承知しないんだからね!」

 そう叫び返したシャルの瞳は、ほんのわずかに潤んでいた。

 舞台にあがると、レフェリーが貴賓席を見るように促す。決勝戦が行われる前に皇女様から労いの言葉をいただくとのことでツトムがそちらを見ると一人の少女が豪奢な椅子に座っている姿が見えた。彼女こそノルーニア大陸を統治する二人の皇女のうちの一人に違いない。そして隣にいる高官らしき男が選手が揃ったのを確認し、声を張り上げた。

「皇女ラナ・ディアー・ノルン様より決勝まで勝ち上がった両名へ労いの言葉があります。」

腰まである長髪を三つ編みにしたヘアスタイル。瞳の色も髪の色も緑がかっていて白い肌に映えている。服装は肩まで見せるゆったりとした白いドレスを身に着けていた。皇女は隣の高官に促されゆったりとその席から立ち上がる。その姿を確認した審判員やデュードが、片膝を着き敬礼の意を示す。ツトムも慌ててそれに倣った。皆一様に神妙にし、頭を垂れるなか、ツトムはチラチラとラナの姿を目の端で捉えようと必死だった。

(白く輝く肌、憂いを帯びた瞳、そして物腰の端々に表れる気品。正に皇女!。しかも可愛い!!)

(本当ならこのような公務は姉様の役割ですのに・・・。ああ、なんと言えばいいのかしら。困りましたわ。えっと・・まずは・・。)

「皆さん、楽にして面を上げて下さい。」

 言われた一同が顔をあげ、視線が皇女に集まる。だが皇女は考え事をしているのか、口を開こうとしない。観客達は普段はお目にかかれない皇女の言葉を今か今かと待ち受けていた。その期待を感じるため皇女は益々話しにくくなる。

(あぅぅ。皆さんの視線が・・・。そうですわ!去年姉様が話した内容をそのまま言いましょう。)

 考えがまとまったのか、去年姉が言っていた台詞を思い出そうとする。姉の口調のまま話すのは気が引けたため、ところどころに修正をいれながら話し出す。台詞の後半にある地雷に気付かぬままに。

「け、決勝までの戦い大変素晴らしいものでした。決勝では両者とも遺恨が残らぬよう全力を尽くしてください。また、優勝者に賞金の他に私からの褒美として、私に叶えられる願い事であれば何でも一つ叶えて差し上げます。」

 ォォオオオオ!!

 観客席からさらに大きなざわめきが起こる。

(はっ!?しまったです!!これは言わなくても良かったのにぃぃ。)

 心の中で自分の浅はかさを心から呪う。そう、去年も姉は同じ発言をした。しかも姉はこう続けたのだ。"何なら、あたしかラナか好きな方がほっぺにチューしてあ・げ・る♪" その言葉を聴いた決勝進出者は両名は奮い立った。決勝戦は荒れに荒れ、結果として舞台を半壊。更にはダブルノックアウトしてしまい。優勝者はいなかったのである。観客席では今年も荒れるのかと危惧した者達が脱出の相談をしていた。

「ハイ、はい、は〜い。ラナ様、質問があります!!」

 目を真剣(マジ)にギラつかせたツトムが、周囲の喧騒よりも一際大きな声でジャンプしながらラナに呼びかけた。ラナはその目付きに多少引いたが、皇女のプライドか逃げる事まではせず応えた。

「は、はい!?何でしょうか?」

「その御褒美って、皇女様とデートとか頼んでもいいの?」

 期待に目を輝かせ尋ねるツトム。ラナはしばらく"デート"の単語が解らなかったが、数瞬してから、単語の意味を理解したのか顔を真っ赤にした。

「デデデ、デート。ですか?私と?」

「もちろん。高貴な方とのデート、ラヴロマンス!これぞ全ての男の夢!!」

 ォォオオオオぉぉおおおおおおおおお!!

 観客席が一段とヒートアップする。一部は見上げた者だと言い。一部の皇女ファンクラブ信者はブーイングの雨を降らせる。そんな中でシャルは・・・ミランダに取り押さえられていた。

「離して!あの恥知らずの命をここで絶ってやるんだからぁ!!」

「いけません!皇女様の御前ですよ。苛立つのは解りますがここは弓を収めて下さいぃ。」

 弓に矢を番え、今にも放とうとするシャルを必死に止めるミランダ。そんな修羅場が自らの背後で繰り広げられているとは知らずツトムは嬉々として返事を待っていた。

「あの、その・・。」

(言ってしまった事はもう取り消せませんよね。あぅう。)

「わ、解りました。それを貴方が望むのであれば。」

 その言葉を聴いたツトムが突然屈んだ。肺の奥まで息を吸い込むと右手を天に突き上げ・・・。

「おっしゃあああああああああ!!!聞いたな皆ぁ!?」

 うぉぉおおおおおおおお!!!

 心の底から歓声を挙げた。さらに両手を振り観客を煽る。観客もその男らしさに賞賛の拍手と応援の声を挙げる(一部はもちろん罵声である)。まさにこの瞬間闘技場が震えていた。慌てたラナが精一杯の声を張り上げツトムに忠告する。

「あ、あくまで優勝したらの話ですよ!?」

「ふ・・・。目的を持った俺は絶対不敗!こんな優男10分で沈めましょう。」

デュードに指を突きつけ、更に親指を下に向け挑発する。デュードは茶番でも見るように一瞥し、ツトムの横をすり抜けラナの元へと歩き出した。

「皇女様、私にも一つ御願いが御座います。」

「な、何でしょうか?」

(む、、まさかこいつもデートしたいとか言い出すんじゃ・・・。)

 ツトムは背中側の腰に挿したジェリコ911に手を伸ばす。その銃は間違いなく本物で殺傷力も高い銃ではあるが、デュードが下手な事を言う様なら即射殺しようと考えていた。

「舞台に張り巡らされている結界を皇女様の力でより強固なものとしていただけないでしょうか。私が全力で戦うには少々物足りなく存じます。戦いが激しくなれば観客にまで被害が及びますので。」

「なるほどわかりました。その心遣いに皆を代表し感謝いたします。結界はただいま強化致しましょう。主審殿、貴方も舞台からは御降り下さい。さもないと出られなくなりますよ。」

 言われた主審が慌てて舞台から飛び降りる。それを確認したラナが目を閉じ両手を胸の前で合わせ高らかに真言の詠唱を始める。

「汝、深緑深遠の森に在られる優緩なる王。我汝が真名を知る者也。盟約に従い、ラナ・ディアー・ノルンの名の元に汝を召喚す。汝が真名はフェイクファリス。金星第二位の守護者なり。」

 唱え終わると共にラナの眼前に奇妙な魔方陣が現れた。その魔方陣はびっしりと木々に覆われており、中心から金色の輝きが漏れ出している。見る見るうちにその輝きは大きさを増し、その奥からドワーフの胴体程もあろうかという腕が突き出てくる。それは腕から、頭、銅、足と姿を現し、全てを曝け出したそれ・・・聖獣の姿は小山程もあるイエティの様であった。全身が毛むくじゃらで、その一つしかない巨大な瞳はどこまでも純粋な優しさを感じられた。 フェイクファリスはラナと視線を交わすと、それだけでラナの意図が通じたのか舞台に顔を向ける。

(で、でけぇ・・・。ランドスケープの爺ほどじゃないが聖獣ってのはデカいのばっかだな・・・。な、なんかこっち見てるし・・。)

 自分が見詰められているわけではないと解ってはいるが、その大きな瞳に仰け反るツトム。だが、その瞳は深く、優しい。ツトムも自然と気分を落ち着けていった。 やがてフェイクファリスは、その巨大な瞼をゆっくりと閉じる。

そして再び瞼を開けたとき、閃光が弾けた!

 カッッ!!

光が収まった頃に、舞台の周囲は淡い光の壁に包まれていた。それと共にフェイクファリスの姿と魔方陣は跡形も無く消えていた。 ラナは光の壁を見て満足そうに頷くと、微笑みながらデュードに声をかけた。

「これで光の壁の外には一切の物理、魔力による干渉はできなくなりました。心置きなく全力で戦ってください。」

「感謝致します。」

 デュードは頭を下げて、礼を言うと自分の元いた立ち位置へと戻っていった。舞台は整ったのである。壁の内部に入れない主審が呆けているツトムを立ち位置に戻る様に促す。 ようやく、自体が把握できたのかツトムはゆっくりと歩き出した。その足取りは、落ち着いた自信に溢れるものだった。  目の前には何故か自分に殺意を抱いている相手、デュードがいる。主審が舞台の外から注意事項を述べているが全く耳には入らなかった。

(自分でも驚く程集中しているな。・・・勝つぞアトワンス!)

(おう、サポートは任しときぃ。ヘマするんやないで!)

(当たり前だ。デートがかかってるんだからな!)

(命もかかってるのが解らんのか。試合後、シャル嬢ちゃんに殺されても知らんでホンマ・・・。)

 ボソっと呟くアトワンス。例によってツトムには聞こえないように。 間もなく主審による注意事項の説明が終わり二人とも好きな間合いを確保するため立ち位置より移動をはじめる。デュードは移動をしない。ツトムは遠距離線をしたいため極力開始線より離れるように移動する。 やがて、主審が右手を挙げ高らかに宣言をした。

「これより、決勝戦を開始する!始め!!」

言葉と共に主審の手が振り下ろされる。同時にツトムが腰にある金属の筒に手を伸ばした!

「先手必勝ぉおおおおおおおおお!」





 ..........to be continued...........

パルミティア 第十三章.〜死闘の決勝戦・前々編〜

BACK   NOVEL INDEX   NEXT